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『仕事なのに……』1
青春を燃やし続けた野球部の同窓会に出席した。
会場の扉を開くと十五年の歳月が流れていた。
狭い会場内では三十人もの参加者がひしめき合っている。男臭いオー・デ・コロンとタバコの煙が入り交じり、濁った空気が澱んでいた。
社会にくたびれた、あの頃の青年達が自らの風貌を忘れ、時代を遡った笑顔で杯を酌み交わす。
水割りを片手にオードブルをつまみ、周りを見渡した。
精神的な苦労を醸し出した若白髪が目立つ者。
年月を飛び越えた老け顔で髪が薄くなった者。
若く見られたくて派手目な色に髪を染めた者。
八十年代のアイドルを彷彿させる髪の長い者。
外貌だけを見ても、卒業後、見事に枝分かれをしていた。
立食の各テーブルには、それぞれがグループごとにちゃんと分れている。趣味や性格や住む場所といった条件で、今でもつき合いのある仲間達が寄り集まっていた。
最初にいたテーブルを離れ、栓を抜いたばかりのビールを持ち、各テーブルをまわる。
互いに交わす言葉は同じ科白の台本でも配られている感じで、ほとんど差違のない問いかけと返答が繰り返されていた。
おう久し振り、元気か、今どこに住んでいるんだ、仕事は何をしているんだ、結婚は、子供は、今度一緒に飲もうぜ、じゃあ他の仲間達にあいさつでも、そうかまたな。
などと、あっさりした会話と名刺交換で別れ、また隣にいる者へと移動して行く。
会話と言うよりも簡単な自己紹介に近いのかもしれない。
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