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———眠れないのよねえ。最近。
と、そのホワイトチョコレート色の綺麗な顔にうっすら疲れを滲ませて、彼女は言った。
眠れない?
そう聞き返すと、うん、と頷きが返ってくる。
「大丈夫? ココナッツ」
「眠いこと以外は大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね、ラズベリー」
ふわあ、と大きなあくびをしながら、ココナッツは微笑む。ラズベリーは何だかむずむずした気分に襲われて、ぱっとココナッツの手を取った。
ちょっとびっくりしたようにパチパチと瞬きをする彼女の目を、ラズベリーはじっと覗き込む。
「本当に大丈夫? ……ううん、そうじゃなくてっ! こういう時にはイエスノーで答えさせる質問にしちゃいけないって誰かが言ってたから……ねえココナッツ、相談乗るよ! 私にできることがあったら何でもする。だからとりあえず、何か悩みでもあるなら、ここで私に全部喋っちゃってね。こう見えて私、口は硬いから!」
おぉ、とココナッツが不思議な感嘆の声を凝らす。
ふんす、とラズベリーは気合いを入れた。
空にはマスカット色の月が出ている。黒い夜のカーテンに淡い色の光がうっすらと滲んでいて、ここに住み慣れたラズベリーたちでさえ、その幻想に見とれてしまう。
この優しくて、何もかもを包み込んでしまいそうで、どんなに寝つきの悪い赤ん坊もたちどころにスヤスヤ眠りに落っこちてしまいそうに深い夜。
だけれど、ココナッツは眠れないと言う。
その澄んだ美しい目の下に、細いくまをこしらえて、辛そうにあくびをしているのだ。
「や、そんな大した話じゃないんだよ」
ラズベリーの心配の勢いを、ココナッツの声が遮った。
でも、心配してくれてありがとうね、と彼女はこちらを気遣うようにつけ加えた。そして。
「悩みとか、そんなんじゃなくて———ほら、ラズベリーは、私が最近アルバイト始めたの、知ってるでしょ?」
「うん」
カミナリを生産するアルバイトだよね? とラズベリーは言う。
そうそう、とココナッツの答えが返ってくる。
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