眠りの音楽

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 何も彼女に尋ねることなく飛び出してきてしまったので、今更ながらちょっと途方に暮れる。しかしまあ、とりあえず集めてくればいいか、という結論に至った。  ラズベリーは集め屋さんだ。  手がかりが薄いからといって、依頼を(正式な依頼ではないにしても)諦めるわけにはいかない。  とにかくココナッツには自宅のベッドルームへ直行してもらって、少しでも長い時間休んでいてもらわなければならない。たとえ目が冴えていたとしても、体はそれで休まるだろうから。長々とインタビューしている時間なんて、ないのだ。  ラズベリーは、夜風のように駆け出した。  まずは、耳を澄ませる。そして、眠りに良さそうな音を拾ったなら、その場にびゅうんと飛んでいく。  雨が降っている。  どこか知らない街で、雨がしとしと細いそうめんのように降り注いでいる。  ラズベリーはそっと舞い降り、水溜りを叩く可愛らしい水の音を捕まえた。  捕まえた音は、ポケットから出した『集め袋』にポトンと入れる。  そしてまた、ラズベリーは駆け出した。  りんごモンキーの寝息。路上のヴァイオリニストのクラシック音楽。森で拾った木の葉のざわめき。お坊さんが木魚を叩く音。竜の夜哭き。鈴鳥の囀り。汽車の出発を知らせる笛。星の歌。チーズフォンデュ鍋の煮える音。貝の赤ちゃんが作ったオルゴールの調べ。  どんな音でもいい。どんなに大変な場所にある音でも、どんなに行くのに時間がかかる場所にある音でもいい。ほんの少しでも、「ココナッツが気に入りそうだな」と思った音を、ラズベリーは集め続けた。  ラズベリーのためなら、何もかもを完璧にしたいと思ったから。  だから、とにかくたくさんの音を集めた。  これじゃあ眠れない、この音は好きじゃない、とココナッツが言ったとしても、「大丈夫! まだまだ音はあるよ!」と言うために。「あなたが気に入る音が、絶対に一個はあるはずだから!」と胸を張って言うために。  果たして。  もうこれ以上はどう頑張っても集められない、とラズベリーが判断して戻ってきた時には、もう夜明けが近かった。  ハッと気づくと、そうなっていたのだ。  夜通し駆けずり回って、音を集めて。  そうしたらもう、眠る時間ではなくなっていたのだ。 「わぁ……どうしよう!」
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