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彼女と枕と涙と
「なぁなぁ君…ここ2週間なんで泣きながら寝んの?僕の服、君の涙でべしょべしょやねん…これからも続くんやったら僕しまいに風邪ひきそうやねんけど…どうなん?まだまだ泣きながら寝そうなん?」
寝ようと布団にもぐったら耳元から声が聞こえて、慌てて飛び起きた。
「だっ、だっ、誰なん?今しゃべったん?」
頭を左右に振りながら目をキョロキョロしながら震えた声を出すと、下から声が聞こえてきた。
「今しゃべったん僕や。毎日君が使ってる枕や」
聞き終わったと同時に速攻手元の枕を見る。そして、思わず掴んで壁に向かって放り投げると、弧を描いて壁にぶち当たって、壁をつたって絨毯の上に落ちる。すると、枕がむくっと起き上がって、文句を言い出した。
「ちょっと、君!急に何してくれてんねん!乱暴やなあ!痛いやんか!!」
あり得ない信じられない光景に目を見開く。
「いやいや…私…疲れてるんかなぁ…寝ぼけてるんかなぁ…枕が立って、目を三角にして口はへの字にして怒ってる…ように見える…うーん…」
首を傾けてうーん…と悩んでいると壁から枕が走ってきて(?)、布団の手前でハイジャンプして私の頭に体当りして、そのまま掛け布団の上にすとんと落ちる。私は体当りのお陰で頭がくらくらした。
「ちょっと私の枕、何してくれてるん!そんなんされて、今、頭くらくらしてるわ!」
枕に文句を言うと、言い返してきた私の枕。
「さっきの仕返しや!これでおあいこや!」
暫しにらみ合う。痺れを切らして枕がしゃべりだしす。
「僕は君と喧嘩したいんとちゃうねん。最近なんで泣きながら寝るんか理由が知りたいねん…なんで泣きながら寝るん?」
心配そうな表情で聞いてきた枕に、思わず素直に言ってしまった。
「彼に会えへんねん…声も聞かれへんねん…」
「えっ?…彼…えと彼は…この世の人ではなくなった?…あの世の人?」
と枕面蒼白になってためらいがちに聞いてきた枕。私は慌てて訂正する。
「あはは…ごめんごめん💦彼、この世の人。ちゃんと生きてはるわ。彼の仕事研究職で、今してる仕事難しくって手が離せへんらしくって。それに今集中したいから暫く会えへんし連絡もできひん…って言われてん。最初の1週間はさみしくって泣いててんけど、なんか段々腹立ってきて…彼自身がちょっとだけ時間作る努力したら、会えへんかっても、ほんの少しでも電話とかメール出来るんちゃうん!?って!!」
「うーん…なるほど…。今の話から、とりあえずストレス泣きは暫く続きそうやね…でも、まぁ…悲しくって泣いてるんと違ってよかった…安心したわ…でも、君、彼になめられてると言うか絶対安心感を抱かせてると言うか…なんて言ったらいいのか分からんけど…とにかく彼をギャフン!と言わせたろやないか!」
そう言った枕の枕色が元に戻った以上に、しゃべりながら興奮してか血色(?)が良くなっていた。
「なんか話が訳分からへんようになってきたけど…“彼をギャフン!”って言わせるのってどうすんの?なんかいい考えがあんの?」
「あるある!あるねん!いいの思いついてん!」
自分の事の様に嬉しそうに喋る枕。
「なになに?何思いついてくれたん?」
「これから説明することは結果的に僕にとっても君にとってもいい事になるはずやねん。つまりWin-Winの関係ちゅーことや!」
「Win-Win?」
「せや!Win-Winや!僕の服…カバーのことやねんけど、君の涙で濡れなくなる。君は多分彼に電話出来たり…もしかしたら会えたりなんかも…」
「そら、Win-Winや!…分かった…とりあえずどんな事するの?」
「あんな…過去から今に至るまでの彼に対するストレス…負の感情を心にいっぱい集めて、負の感情を涙に込めて泣きながら寝て、僕を出来るだけ涙まみれにしてほしいねん」
「えっ?ちょっと待って。涙まみれにするっていったいどんだけ泣かなあかんの、私?」
彼の話の腰を折って思わず聞いてしまった。
「えっ?どんだけって、涙枯れるまで?」
「涙枯れるまでって…ええ加減な…」
枕の答えに呆れてしまった。
「まぁまぁ…それはなんとかなる…なんとか僕がするし!急ぐしとにかく話進めるで?いいか?」
「急ぐし…って、まさかまさかの今日?今から?」
「そやでー今日やで?善は急げって言うやんかー…勢いで行ってまおー!!」
「………えーと…はい…行ってまお?」
「最後の方、棒読みやけど…まぁいっかぁ!話進めよ。涙まみれの僕が彼のところに行って枕元に立つ」
「ほんで?」
「君の代わりに怒って怒って怒りまくって、怒りパワーで涙を水蒸気に変えて、その水蒸気を集めて雨雲を作る」
「ほんで、ほんで?」
「君の気持ち…ストレスがこもった雨を降らす」
「えっ?そしたら彼べしょべしょに濡れるん?」
「濡れへん、濡れへん。夢の中で降らすし。現実は少しも濡れへんし心配ないでー。ちなみに雨が降ってる間、君のストレスの原因を僕が作詞作曲して歌う予定やねん」
「ふーん…なんか分かった様な、分からん様な、ベンベン♪…って感じやなぁ…」
「まぁまぁ、取りあえず時間ないし実際やってみましょ!」
「うん、分かった。取りあえず、彼に対するストレス…負の感情を心にいっぱい集めて、たくさん泣くわ…涙が枯れるまで…」
「頼むわ!ほんなら僕も定位置に戻るわ」
「私も布団に潜るわ…おやすみ…枕」
「今までの彼への溜まってるストレス、涙に吐き出しや…おやすみ」
ーーーーー
「よっこいしょっと…彼女、泣き疲れてよう寝とるわ…僕あんまり涙まみれになってへん…どっちかって言うたらヨダレまみれになってる?ちょっと臭いけど…まぁいっか!取りあえず、彼女の彼に対する想いをたぐって、彼のとこまで行くとしよか…せーのー…ピローッチ!!」
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