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リトは暗い森のなかに立っていた。
明け方の空には小さな星が白く輝いていた。遠くにみえる山の稜線から朝日の輝きが溢れ出そうとしている。
リトのいる場所からは山間に広がっているとある街を見下ろせた。
しかしそこにはすでに街の面影はなかった。それらがあった場所には、大地を根こそぎ抉った巨大な深い穴が開いていた。
リトはそこにあった街のことを知らない。
自分がいまどこにいるのかもわからない。
初めてみる場所で、何も知らないはずなのになぜか、そこに街があったことを知っていた。
穴の周囲で木々が燃えている。穴のなかでも炎が赤々と燃え下がり、朝を迎えんとする白みはじめた空にもうもうと黒煙が立ちのぼっている。
吹きあげてくる風は思わず顔をしかめるほどに焦げ臭かった。
「ほんとうに、これで良かったの?」
そんな声が聞こえて来た。振り返ると、そこにはふたりの若い男がいた。
彼らも街のあとに出来た巨大な暗い穴を見下ろしていた。リトには気づいていない、というよりも見えていないようだった。
銀髪の青年が、となりに立つ黒髪の青年を見ている。
黒髪の青年は眼鏡を外して、ゆっくりと頷いた。
「これで良い。神秘につながってしまった古代魔法は装置としての役目を終えた。これ以上の発展は悲劇しか生まない。もう誰も神秘に辿り着けないように、ここで終わらせるのが最善だった」
学者然とした淡々とした言葉だった。
火の粉まじりに風が彼らの髪を揺らす。
「でも、あそこにはきみの友達や家族、これまでの研究だって……」
ためらうような口調で銀髪の青年がたずねる。
最後まで言わせず、黒髪の青年は首を横に振った。
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