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「普通に暮らしてみたいかも。人のふりして」
銀髪の青年はそう言った。軽快な足取りで歩いていく。
それを聞いた黒髪の青年は、数歩進んだところで口を開いた。
「私は本屋をしてみたいかな。自分の好きな本ばかりを置いた、偏った本屋」
「じゃあ、ジゼルが店主でぼくはそのお手伝いだ」
山の稜線から溢れだした黄金色の光が、彼らの行く手に輝いていた。
リトはふたりの背中を見送っていた。
どこか知っているような気がする青年たちだった。
「うーん……」
ソファで寝返りをうつ。身体にかけられたブランケットの温もりが心地よい。
本とインクの香りと、コーヒーの香りがする。
大好きな空気をひとつ吸い込み、リトはふたたび眠りのなかに沈んでいく。
ふわふわとした心地の良さに包まれて、さきほど見た夢のことはもう、忘れていた。
了
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