4/4
前へ
/17ページ
次へ
「普通に暮らしてみたいかも。人のふりして」 銀髪の青年はそう言った。軽快な足取りで歩いていく。 それを聞いた黒髪の青年は、数歩進んだところで口を開いた。 「私は本屋をしてみたいかな。自分の好きな本ばかりを置いた、偏った本屋」 「じゃあ、ジゼルが店主でぼくはそのお手伝いだ」 山の稜線から溢れだした黄金色の光が、彼らの行く手に輝いていた。 リトはふたりの背中を見送っていた。 どこか知っているような気がする青年たちだった。 「うーん……」 ソファで寝返りをうつ。身体にかけられたブランケットの温もりが心地よい。 本とインクの香りと、コーヒーの香りがする。 大好きな空気をひとつ吸い込み、リトはふたたび眠りのなかに沈んでいく。 ふわふわとした心地の良さに包まれて、さきほど見た夢のことはもう、忘れていた。 了
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加