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閑静な住宅街。 夕方の気配を感じる風が街路樹をやさしく揺らしている。 風に流れた葉が、帝都学園の制服を着た少女の赤い髪をかすめていった。リト・サーディンは二階建ての白い建物のまえで立ち止まると、木製の扉を押し開けた。 からんころん、とベルが鳴り響く。 店内はオレンジ色の照明で落ち着いた雰囲気だった。奥に長く、天井まで届く本棚が壁を埋めている。見渡す限り無数の本が並んでいて、紙とインクとほんのりコーヒーの香りがする。 「いらっしゃい。こんにちは」 穏やかな声をかけてきたのは黒髪の青年だった。濃緑色のエプロンをしていて、数冊の本を抱えている。この書店の店主でジゼルという。 「いつも来てくれてありがとう」 ジゼルは目元を細めて笑う。物腰同様に、やわらかくて優しい笑顔だった。 彼のそばにはもう一人、男がいた。踏み台に腰かけて長い足を抱えている。 「物好きだねぇ」 彫像のように整った顔立ちをした青年だった。銀色の髪に灰暗色の瞳をしている。思わず目を奪われるような美形ではあるが、リトを見てこれみよがしに鼻で笑った。 「アンセム! なんてことを言うんだ」 「だってそうでしょ。偏った古書しか扱っていない本屋に通うとか、物好きでしかないじゃん」 「……」 咎める口調だったジゼルはその返しに黙り込んでしまう。アンセムはにやりと口角を持ち上げて、座ったまま店主を見上げた。 「ほら、それもそうだなぁって思ったでしょ」 すると店主はアンセムに背を向け、リトに対して明るい笑顔を投げかけた。 「ゆっくり見て行ってね」 「あっ、無理矢理切り替えた」 後ろから声が聞こえて来ても、ジゼルは聞こえないふりをしている。
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