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「高い所の本が見たければ声をかけてね」
思わずくすくすと笑ってしまう。
店の雰囲気も好きだが、ふたりのやりとりを聞くのも好きだった。店主はジゼルで、アンセムは手伝いだと以前聞いた。
棚に並んだ本を眺める。
薬草や幻想動物を題材にした、百年近く前の書籍が多くならんでいる。
それらは魔法に関わりのある本だった。
いまどき魔法なんて、と言う人もいる。
魔法の全盛期は数百年前のこと。当時は魔法が担っていたことは、現在では化学が担っている。先天的な能力が必要な魔法よりも、誰でも等しく扱える技術のほうが浸透していった結果だった。
それでもリトは帝都学園の魔法科で学んでいる。彼女にとってこの書店は、貴重な資料に触れられる特別な場所なのだった。
大きな本棚を埋める本は年代ものばかり。
背の部分は陽に焼けて、擦り切れていたり、箔押しが剥がれていたりしている。重厚な布張りや本革の本は、時を重ねたせいもあって重鎮ともいえる雰囲気をまとっていた。
先人が編み上げたものがこの小さな書店に集結している。
知らないものを知るために、足りないものを埋めるために、少女は本と向かい合う。
「すみません。あそこの赤い本を取ってください」
背伸びをしながら指を差す。天井に近い上の段にある、明るい赤色の本だ。特殊な装丁がされているのか、その一冊はほんのりと輝きを帯びているようにみえた。
「そこの、いえ、二つ上の段です。もっと右の。きらきらとした赤い本です」
梯子のうえでジゼルは首をかしげている。
「赤?」
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