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「三つとなりの真っ赤なきれいな本……それです!」
その場でぴょんぴょん飛び跳ねるリトを、離れたところからアンセムがあくびをしながら眺めている。踏み台に座って膝のうえに雑誌を広げてた。
「これは……古代魔法について書かれている本だ」
梯子から降りて来たジゼルは、小さく呟いてそっと表紙を撫でた。
リトは「はっ」と短く息を飲んだ。知的好奇心がむくむくと膨らんでいく。
「それって! 大昔に使われていたという、幻の魔法のことですか!?」
「さすが魔法学科の学生さん。よくご存じで」
少女は両手で口を押えた。あふれ出そうになる歓喜の声をどうにか抑える。
「わたし、古代魔法に興味があります! 是非、その本を読ませてください!」
朝日をうけた水面のようにリトの瞳はきらきらと輝いていた。少女の無垢な光を目の当たりにしたジゼルは、本を手にしたまま戸惑っている。
「古代魔法をもっといっぱい勉強したいのですが、あまりにも資料が少なすぎて困っていたんです」
「あっちの棚にある絵本にすれば? 魔法使いとくまさんが冒険するやつ」
アンセムが雑誌をぱらぱらとめくりながら言った。リトが振り返ると、銀髪の青年は視線を少女へと向けた。
「いまさら古代魔法なんか調べてもなんにもならないよ」
その通りだった。
古代魔法が幻といわれている理由は、ほとんどの資料が消失しているからだった。
古代の魔法をたぐりよせる手段が無いのである。
アンセムの言葉を受け止めて、リトは彼の目をまっすぐに見返した。
「その通りです。でも、おもしろそうっていう好奇心は抑えられません」
「あぁ。きみもそのタイプか」
ちらりとジゼルのほうを見遣って、アンセムは呆れたように肩を竦めた。
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