ずるいよ、先生。

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 「汐音ちゃん、最近、国語準備室に行かないんだね?」  三年生になってから、一緒にお弁当を食べるようになった読書好きのクラス委員の眞理子ちゃんが、タコさんウィンナーを頬張りながら訊いてきた。  「うん……小邑先生がいないから」  「そっかぁ……小邑先生、最近ずっと職員室だもんね」  あれ以来、小邑先生は国語準備室を私物化するのをやめてしまった。  ノートパソコンも、デスクに積まれていた文庫本も、電気ポットの横に置いてあったダークグレーのマグカップも、そこからキレイになくなっていた。  授業中も、廊下ですれ違っても、今までとは違う態度でよそよそしく、滅多に視線を合わせてくれなくなった。    間違いなく、避けられている。  先生と生徒の一線を越えないようにと、先生からの拒絶だ。  そっか、そうだよね。  私ばかり特別っていうわけにはいかないもんね。  そう、物分かりの良いふりして、私は家で静かに泣いた。    露骨に距離を置かれていることに気付いて、私は追いかけることが出来なくなった。  あからさまに避けられて傷ついたのに、それ以上傷つきたくなかったし、嫌われたくなかった。それに、困らせたくもなかった。  私は受験勉強に打ち込み、気持ちを紛らわせた。  そうじゃなくても、一年だぶってるから、浪人するわけにはいかない。  脇目を振らず、私は勉強に没頭した。  『焦るな、大丈夫』  『一歩ずつ、確実に。それがやがて実を結ぶ』  『無理するな、でも怠るな』  先生からもらった励ましのメモ紙を集めて、挫けそうなときにはいつもそれらを眺めた。    
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