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痛みに支配されて、これからのことも心配で、不安で、気分が落ち込んだ。
それなのに容赦なく始まる苦痛のリハビリ。夜中に他病室から聞こえる雄叫び(何なの!?)に、徘徊して病室に迷い込んでくるおじいちゃん(わざと?)、いつも説教じみたことを言ってくるお節介な同室のおばさん。
毎日、何かしらのイベントが発生する。だがそれは、決して楽しいイベントではない。
一週間も経たないうちに、私は入院生活にうんざりしていた。
そんな時、クラス担任だった小邑先生がヒョッコリお見舞いに来てくれた。
「暇だろ?」と、現国の先生らしくお勧めの小説を持ってきてくれた。
先生は毎週、土曜日の午後三時に病室に現れた。
学校の様子を業務連絡のように話してくれて、新しい本を渡される。たったそれだけの三十分にも満たないやり取りだったが、私はなぜか、その時間を心待ちにするようになっていた。
……というのも、本には必ず、メモ紙が一枚入っていて、そこには本のおすすめポイントと、私に向けた一言メッセージが書かれていたのだ。
『焦るな、大丈夫』
『一歩ずつ、確実に。それがやがて実を結ぶ』
『無理するな、でも怠るな』
『待ってるぞ』
愛想なしのクールな教師のくせに……。
意外と人情味のある男なんだなと、ギャップに萌えて、私の心は簡単に奪われてしまったのだった。
だから、先生と過ごすそのたった三十分と、一言メッセージが、一週間頑張った私へのご褒美のように思えたのだ。
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