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私はリハビリに励み、後遺症が残ることなく、桜の咲くころに退院できた。しかし、現実は待ったなし。出席日数が足りなくて、私は進級することが出来ずに二年生をもう一度することになっていた。友達は皆、上級生になり、受験でピリピリし始めていた。
私だけが、ポツンと置き去りにされたようだった。そして新たな同級生の中で、私は浮いた存在だった。
どこにいても居心地の悪い校舎内。そんな私の心のよりどころは、やっぱり小邑先生だった。
小邑先生と過ごせる時間が増えたんだと思えば、そんな孤独を感じる高校生活も頑張れる気がした。
現国を担当している小邑先生は、いつも、国語準備室で授業の準備をしたり、読書をしている。
本棚にはびっちりと本が並び、デスクにはノートパソコンと、積み上げられた文庫本。そのデスクの横のキャビネットには電気ポットとインスタントコーヒー、それからダークグレーのマグカップが置いてある。八畳くらいの広さだろうか……そんな国語準備室を小邑先生は私物化しているようだった。
だから私は、昼休みや放課後になると決まって国語準備室へと遊びに行っていた。
「また来たの」
「うん、小邑先生のこと好きだから」
と、こんな感じで軽~く初めての告白をした。
そんな軽さとは裏腹に、私の心臓はバカになったみたいにバクンバクンと暴れて、口から飛び出してくるんじゃないかと思う程だった。
「あぁ、はいはい……それはどうも」
小邑先生は表情一つ変えることなく、私は軽くあしらわれる。
全く真剣に取り合ってはくれなかった。
まぁ、それはわかりきっていたことだし、それでよかった。
おかげで気まずくなることもなかったし……。
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