ずるいよ、先生。

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 「相田、進路は決めたの?」  「うん、もう決めた」  「何? どこ」  「医療大学。理学療法士になりたいなって」  「……なるほど」  時々、こんな真面目な進路の話をすることもあるけれど、先生の作業の邪魔をしないように、私は部屋の隅で、木でできた四本足のスツールに座って先生から借りた本を読む。  そんな変わらない日々を、気づけば一年続けていた。  言葉は交わさずとも、一緒の空間にいることが心地よい私のお気に入りの居場所。  三年に進級してからも、私は変わらず国語準備室に通った。     「相田、友達作れよ」  「……いるし」  「……そ?」  「うん」  「ならいいけど」  「うん」  この人は何で教師になんてなったんだろう?  愛想もなくて、マイペースで、熱血ってわけでもないし……。  「先生は何で先生やってるんですか」  高三の初秋のある日、私は前々から感じていた疑問を口にした。  「何でかなぁ……何でだと思う?」  「えー? いやいや、聞き返すなし!」  私が呆れたようにそう返すと、先生は「ハハハ! ナイスつっこみ」と、ふにゃっと表情をゆるめて笑った。     晴れの日に見つけた虹のようなその笑顔に、トクンと胸が高鳴り、嬉しくて、いつまでも見ていたい気持ちになる。自然とこちらも頬がゆるんで、なぜだか目頭が熱くなった。
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