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プロローグ
「やあ久しぶりだね」
彼は、何となく楽しそうな口調で目の前の相手にそう言った。
「君にまた会えるなんて、思ってもみなかった」
目の前の相手は、何も言わずゆっくりと近づくと、かがみ込み、倒れている相手の大きな目をのぞき込む。黒い長い髪が、地面に落ちるのも構わない。
黙っている相手は、それでもその物腰だけで雄弁だった。首を横に振る。もうそれ以上喋るな、と目は訴えかけている。
「言わせてくれないか? どうせ放っておいても、もうじきそんなことはできなくなるんだ」
目の前の相手は、力無く地面に落ちた彼の手を取る。その白い手が、みるみるうちに赤く染まった。彼はその様子を妙に冷静に見ている自分に気付いていた。
「今からでも間に合う」
「やめてくれ、判っているだろう?」
相手の黒髪がざらりと揺れた。
「それが俺の望みだって」
「そうだ。お前はそう言っていた。全てかゼロか。それ以外は要らないと」
「よく覚えていたよね。俺はうれしいよ。それに最後に会うのが君ですごくうれしい。最高の天使が迎えに来たのかと思ったよ」
「だがお前は言っていた」
「俺が何を言っていた?」
「自分を迎えにくるのは黒い魔物だと」
「そうだよ」
彼は端正な顔に、物騒な程に穏やかな笑みを浮かべた。
「ずっと待っていたんだ。長い間、俺は、ずっと。誰よりも、会いたくて仕方のなかった奴だもの。俺もいい加減馬鹿だよね。ずっと近くに居たのに、全然気付かなかった」
「居たのか?」
「ずっとそばに」
そう言うと彼は軽く目を伏せた。
「頼みがあるんだ。昔なじみのよしみで聞いてくれないか?」
「何だ」
「それは……」
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