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唐突だが、私にモテ期が到来した。
それはいい。むしろやっと来てくれてありがとう、といいたい。場所が場所なら、だけど。
私は異世界トリップした。
まあ1000歩譲ってそれもいい。元の世界には帰りたいけど、30手前で恋人無しの寂しい人生だったし。
両親は心配だけど、うちは六人兄弟で三人の姉達は皆結婚済み。子供もころころ産んでいて大家族だ。だから、末っ子の私がいなくてもなんとかなるだろうし。
ただ、それもやっぱり場所が場所なら、だ。
「サキ、果物を持ってきたぞ。採れたてだ。甘くて美味いぞ」
私が家、と決めた巨大な樹のうろの外で、ここの集落の住民が声をかけてきた。
とっても美形な男性で、両腕いっぱいに梨に似た果物を抱えている。甘い匂いが空腹に突き刺さったが、どちらもノーセンキュー。
「いらない! 持って帰って!」
私の失礼な言葉にも彼ら(・・)は一向に怯まない。
「ほら、サキ。君が食べたいと呟いていた魚を獲ってきたよ」
「俺は肉だ。ルーサズの肉は煮ても焼いてもいけるらしいぜ」
次々差し出される食糧の数々……い、いや! 誘惑に負けるもんか!
「いらないってば! いい!? そっから中に入んないでよ!?」
皆、とっても格好良い。正直初めて見た時はときめいたほどのイケメンぶりですよ。
ただ。
「おお、ようやく顔を見せてくれたな、サキ! 見ててくれ、俺の舞を!」
「何を言ってるのですか。あなたの粗暴な舞など、見る価値はありませんよ。それより、私の優雅な舞を……」
「いや、ここは俺が……」
私が入り口に出たことでテンションが上がったのか、背中から【羽】を出して踊りだす青年達。そう、羽だ。ふわっと風に舞い上がる色とりどりの羽根。
「ぎゃあああ!! やめて! 羽出さないで、踊らないで! 羽が、羽が飛び散るううう!!」
いくら男運が悪いとは言っても、羽毛アレルギーの私が鳥人間である彼らの集落に落っこちた上に、黒い髪が綺麗だとモテモテになるなんて、最悪過ぎる!
しかも、私一人じゃ満足に食糧を集められないのを知って、毎日美味しそうな果物やら魚やらをプレゼントしてくるのだ。
しかし、元の世界で番のインコを飼っていた私は知っている。
番いになるには、舞に惹かれるだけじゃなく、相手から食糧を受け取ることでもOKになるということを!
今日も私は、色とりどりの羽を見せつけるように舞う青年達からの甘い求愛の言葉と、美味しそうな食糧の誘惑にあらがう。
……どこまであらがえるかは、神のみぞ知る。
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