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世間話もそこそこにさっそく店内に入ると、そこは程よい喧騒に包まれていた。静かすぎない事にホッと胸を撫で下ろし、店員に案内された席へと着く。 とりあえずピザとパスタを頼み、それらを二人でシェアする事にした。 お酒は飲みますか?と聞かれて、少し悩んだけれど頷いた俺に「じゃあ私も飲んじゃおうかな」と無邪気な笑顔を見せた彼女は、せっかくだから、とスパークリングワインのちいさなボトルをオーダーした。 ワインを飲むのは初めての事で多少の不安はあったけれど、彼女が頼んでくれたワインは桃の風味や甘味が強く、とても飲みやすいものだった。 「うわ、このワイン美味しいな」 「ですよね?私も初めて飲んだ時に感動したんですよ。ワインって少し身構えしちゃうけど、これなら飲みやすいし、大丈夫かなって。和真さんのお口に合ってよかったです」 俺に気遣って、アルコール度数の低い物を頼んでくれたのだと気づいて、胸の辺りがじんわりと温かくなるのを感じた。 その後しばらくしてマルゲリータのピザとジェノベーゼのパスタが運ばれてきたけれど、どちらもすごく美味しかった。30分ほどで2つともを平らげ、追加で牡蠣のアヒージョと生ハムとチーズのブルスケッタも頼んだ。 箸を進めながらも話は尽きず、いろんな話を共有した。そのどれもが取るに足らないような普通の会話だったけれど、笑いは絶えず、終始楽しい時間を過ごせた。こうして何気ない話を気兼ねなく話せる相手というのはそうそう居るものではないと思う。人見知りが激しい上に警戒心が強い俺からすれば、出会って間もないうちからこんなに打ち解けられる人は本当に珍しかった。 あっという間に時間は過ぎ、ラストオーダーの時間が来るまで俺と彼女は話に夢中になっていた。 「今日は本当にありがとう」 「いえ。私こそ、ありがとうございました。すごく楽しかったです」 「うん、俺も。次は俺が奢るよ」 「次……あるんですか?」 隣を歩いていた彼女がふいに足を止め、俺を見上げる。えっと、と言葉に詰まりながらも開口する。 「…美里ちゃんが、嫌じゃなければ…だけど」 「ふふっ」 しどろもどろになりながらもそう言った俺に、彼女は堪えきれないといった風に笑った。アルコールのせいか、ほんのりピンクに染まった頬が街灯に照らされて眩しかった。 「じゃあ、期待してますね」 悪戯っ子のような笑顔に、胸が痛いほどに高鳴る。 まるでスキップでもしたいくらいには浮ついた気持ちで帰路を辿っていたけれど、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。 「あ!そういえばこの辺にすごく美味しい鉄板焼き屋さんがあって───、」
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