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小さな町にある古いレンタルビデオ屋。そこで俺は週に4回ほどアルバイトとして働いている。 店名のロゴがプリントされているエプロンを身につけタイムカードを押して店内に足を運ぶとレジにいた男が「よお」と口角を上げた。こいつは俺と同じ大学に通っている芝田(しばた)だ。同じ学年で同じ科。さらには住んでいるマンションも近いとなれば打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。このアルバイトも芝田の紹介で始めることになり、早くも半年が経とうとしている。 おはよう、と挨拶を返してから俺もレジの中に入り、返却済みのDVDなどの整理に取り掛かる。ジャンル毎にDVDを分けている俺の隣から芝田の声が掛かった。 「休日のこんな昼間からバイトとか相変わらず冴えねぇなぁ、和真(かずま)は」 やれやれと言わんばかりの表情を浮かべられて思わず眉が寄る。「それはお前もだろ」と返した俺に芝田は「俺はこれからデートだから」と得意げに口角を上げて言い放った。 「お前、まさかまた違う女?」 「そのとーり。今日はロリ系の巨乳」 ぐっと親指を突き出してくる様子に今度は俺がやれやれ顔をする番だった。 芝田はまるで日替わり定食のように遊ぶ女を替える。特定の女は今まで一度も作った事がないらしい。理由は縛られるのが嫌だという事と、いろんな女と遊べなくなるのがそもそも無理だと言っていた。まあつまり、生粋のたらしという事だ。 芝田の顔つきはなかなか整っていると思う。シュッと吊り上がった瞳は男らしさもありながら艶っぽさもあり、こいつがモテるのも納得だけれど…。 「いい加減、少しは落ち着いたら?」 「バァカ、俺らまだ20やそこらだぞ?まだまだ遊ばねーでどうすんだよ」 「芝田は遊び過ぎだと思う」 「いや、お前が遊んでなさ過ぎな」 パイプ椅子に深く腰掛け、伸びをした芝田は「大体さぁ」と言葉を続ける。 「お前、顔めちゃくちゃ良いのになんで女作んねぇの?」 「なんでって…」 そう聞かれると返答に困ってしまう。 出会いが無いわけじゃなかった。昔からハーフに間違われるほど日本人離れした中世的な顔立ちは女ウケは良い方なんだろうなと、周りの反応を見る度に自覚はしていた。現にこれまでに何度も告白をされた事もある。でもそのどれもに頷く事はなかった。 そう、俺は未だに年齢=彼女がいない歴を更新し続けているのだ。 「……ピンと来なかったから?」 考えあぐねた結果、疑問形でそう言った俺に芝田は何故か白い目を向けてくるから「なんだよ」と此方は怪訝な眼差しを送った。 「要するにすっげえ理想高いって事か、お前」 「いや、そういうわけじゃ」 「はいはい、言い訳とか要りませーん」 勝手すぎる解釈でこの話題にピリオドを打とうとしている芝田に「だから、」と弁解を口にしようとしたけれど、俺の声は「あ!」と言う芝田の大きな声に掻き消されてしまった。その声に驚いてびくりと肩を震わす。「なんだよ、急に」と焦った声で尋ねる俺に芝田は「あれだよ、あれ!」小声でそう言いながら店の出入り口を控えめに指差した。不思議に思いながらも視線を向けた先、そこには一人の客が今まさに店内に入ってきていた。
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