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───────── 机の上に置いていたスマホがヴヴ、と低い音を立てて振動した。それを手に取り画面を操作する俺を横目に見ていた芝田はわざとらしい溜め息をひとつ零す。 「はいはい。可愛い彼女ちゃんからの連絡デスカー」 棒読みよろしく放たれた言葉に今度はこっちが溜め息を吐く番だった。 「彼女じゃないって」 「よく言うよ。飲み会抜けて、その女 引っ掛けたくせに」 「だから、引っ掛けたとかじゃないって」 確かにいきなり飲み会を抜けた事に関しては反省している。反省していたからこそ芝田にはその日に起こった事を全て──…そう、美里ちゃんとの事まで包み隠さずに話したのだけど、今それを激しく後悔している。 あの日からというもの、俺がスマホを触る度にこうしてジト目を送ってくるのだから、本当に勘弁してほしい。 「あんな清楚系美女捕まえるとか、ほんっと羨ましいわ」 しかも芝田は美里ちゃんの事を知っていたというのだから、本当に驚いた。芝田曰く、美里ちゃんは大学内では有名らしく、噂によるとミスコンに出場しないかと誘われているらしい。 まあ、納得と言えば納得だ。華やかだけれどいやらしさや鼻につくような位印象を持たせない。むしろ彼女のあの瞳に見つめられると心が浄化されるのではないかと本気で思ってしまうほど清らかで美しい彼女の容姿はきっと大勢の人を魅了しているのだろう。 【今週の土曜日の夕方、お時間ありますか?】 先ほど届いたメッセージを確認すると、そう書かれていた。 差出人は美里ちゃんからだ。 飲み会の時のお礼がしたいと言って、ディナーに誘ってくれた。勿論そんな事はしなくていいと一度は断ったが、彼女も折れなかった。ここは有り難く、彼女のご厚意に甘える事にした方が良さそうだと悟ったのが数日前の事だ。 華やかな容姿だけに留まらず、律儀で礼儀正しいだなんて。こんなの惹かれない方が無理な話だと思う。 そんな事を思いながら、その誘いを快諾する返信を送信した。 ──────────── 彼女との約束の日はあっという間に訪れた。 行く店や、その予約も全て彼女に任せきりになってしまった事を少し申し訳なく思いながらもメッセージで伝えられた場所へと向かう。そこはシックな雰囲気のイタリアン料理の店だった。赤を基調とした外装の店の前に立っている美里ちゃんを見つけて、駆け寄る。 「ごめん、待った?」 「いいえ、今来たばかりです」 なんだか恋人の定番のようなやり取りに少し照れてしまう。 「予約とか全部任せちゃってごめんな」 「全然大丈夫です。というかこれはお礼なので、和真さんはそんな事気にしなくていいですよ!」 勿論ここのお代は全部私が出しますからね、と念を押すように言われて、思わず笑いながらも頷いた。
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