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「だーっ、もう! なんでわかんないのぉ!?」
一際大きな声が生徒会室に響いた。
声の主である木谷みなみが、生徒会長の胸ぐらに掴みかからんばかりに苛立っている。
普段からメイクバッチリの圧力つよめの美人だが、怒ると尚迫力がある。私を含めた周囲の生徒会役員達がハラハラと見守る中、当の生徒会長は毛ほども気にした様子もなく
「何度言われても返事は同じよ。この内容では受理できないわ」
と、涼しげに落ち着いた声音で答える。
ぴっちり七三に分けられた前髪は、一房も乱れていない。
「はーー? ハロウィンパーティーめっちゃいいじゃん! ぜったい超楽しいし!」
「あなたが楽しいかどうかは論点ではないわ。学校の講堂で開催する理由にならない、と言っているの」
「だからさ講堂だったら全校生徒集まれるっしょ?? それが講堂でやりたい理由!
やっぱー全校生徒にきてほしいじゃん! みんなで仮装してさー! あ、本格的な奴じゃなくても全然オッケーにしてさ。制服の上からカチューシャとか、羽織るだけで済むコスプレ用意してー...ほらこういうの高校生の今しかできないじゃん?」
「...遊び目的では講堂を貸す正当な理由になり得ないと言っているのよ」
「たまーに演劇部とかが公演するくらいしか使ってないんだからさ! こういうのユーコー活用した方がいいっしょ!」
駄目だ。根本的に話が噛み合ってない。
さすが木谷みなみ。
学校一のパーティーガール、いやもうありていに言ってしまえばギャルの木谷みなみと、
学校一の優等生の生徒会長である水野たきのーー
月と太陽、水と油、天使と悪魔...に続き、新しい対照の事例に入れてもいいくらいに真逆であり、犬猿の仲の二人なのだ。
こういったやりとりも今日に始まったことではない。何かというとイベント毎を開催したがる木谷さんとそれを却下する水野さん。それでもまぁ申請書を用意するようになった分だけマシになったもので、以前は勝手に学内でイベントを開催し、現場で私達生徒会がしょっぴくということも多々あったのだ。
木谷さんの折れなさは本当にすごいが、それを毎回毎回折っていく水野会長もたいした根気だと関心してしまう。
「——わーっかりましたぁ! 書き直せばいいんでしょ? ケチ!」
「ええ。開催の目的については、もっと詳しく書いてくることね」
私が関心しているうちに、いつのまにか二人の激論は終わっていた。木谷さんは興奮冷めやらぬ感じであったが、一応も納得はしてくれたようだ。時計を見上げると下校時刻ぴったり。さすが水野会長、というより他ない。いつもながら定時で仕事を終わらせる手腕、大人になって社会人になってもきっと変わらないんだろうなと思ってしまう。
「よし、今度こそキッチリ申請書書いてギャフンと言わせてやっからな!」
「目的が変わっているわ。私をギャフンと言わせることではなく、講堂を借りたかったのでは?」
「もーーっ! うっさいなー! 同じことなの!!」
自分でもおかしなことを言ったと気付いたのか木谷さんは照れ隠しのようにプリプリと怒った。
「じゃーね! 会長!」
「ええ。また」
びしゃりと大きな音を立ててドアを閉め去っていく木谷さん。そのままドアをじっと見つめる水野会長の目元は見たことないくらいにやさしい光を帯びていて...まるで——
「さぁ私達も帰りましょう」
そう会長に促されて、私は考えを中断し、急いで帰り支度をする。
ふと見上げれば、いつもの落ち着き払った会長の姿。髪の毛ひとつも乱れていない。
私はさっき見てしまったものについて、もう一度考えてみる。胸がドキドキしてきた。なんだか急に色んなことに合点がいく、パズルの最後の1ピースがバッチリハマったようだった。
いや、たとえそうであったとしても私にはただ見守るしかできないのだけれど。
これからも生徒会の攻防から目が離せそうにない。
完
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