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大勢の貴族たちが出迎えた。
大広間に入り、セリーナは青ざめる。
ひそひそと遠巻きに噂する着飾った男たち。華やかなドレスの女たち。
周りが敵ばかりに見える。セリーナの顔がだんだんと下へ向く。
呼吸が浅く、早くなり、足が止まりそうになった。
「セリーナ様」
ふいにルシアの声が聞こえた。セリーナは、顔を上げる。どこから聞こえたのか。幻聴か。分からなかったが、その声は導く光の様に感じた。
「大丈夫です。私がいます」
とても近くに聞こえた。
「ルシア……」
セリーナは、呟く様に応えて胸を張り、堂々と歩いた。
父と共に広い大広間を横切り、用意された椅子の前に立った。
王妃と兄王子が入って来た。大広間を横切り、セリーナと同じように用意された椅子の前に立った。
国王が宴の始まりを宣言し、楽団が音楽を奏で始めた。
皆がペアを組んで踊り出す。
婚約者の一人、公爵の息子がセリーナの前で跪いた。
セリーナは、緊張して固い顔になる。先生以外では、初めての相手だ。
差し出された手に自分の手を乗せた。微かに手が震えた。
大きく深呼吸し、すくっと立ち上がる。
(大丈夫よ、セリーナ)
――”まずダンスを楽しまれたらどうでしょうか”。
(楽しめばいいのよ)
二人は大広間の中央に進み出ると、音楽に合わせて踊り始めた。
緊張しつつも優雅なステップを踏むセリーナ。
公爵の息子が安心した様に微笑んだ。
(長い間、心配をかけていたわよね。ごめんなさい)
セリーナは、心の中で謝った。そして思った。
(この方、とても踊り易くて楽しいわ)
セリーナは、微笑んだ。公爵の息子は、今度は嬉しそうに微笑んだ。
ドン!
突然、セリーナの背中に衝撃があった。他のペアの男が、セリーナにぶつかって来たのだ。
「きゃっ!」
「セリーナ様!」
公爵の息子との手が離れる。バランスを崩したセリーナは、床に倒れそうになる。
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