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がしっ! と、セリーナの身体を支える腕があった。
セリーナは、目を見開いた。目の前にルシアがいた。
「ルシア!」
ルシアは、凛々しい男性用の黒い礼服姿だった。前髪の一房がはらりとこぼれた。
セリーナは、ルシアの支えで立ち上がった。
「お怪我はありませんか」
「ないわ。ありがとう、ルシア。でも、どうしてここに」
「そちらの方と決着を付ける為に」
「え?」
ルシアは、セリーナにぶつかって来た男に向き直った。
「あれはルシア嬢の婚約者のベルーナ伯です」
公爵の息子が小声で教えてくれた。
ルシアとベルーナ伯が睨み合う。
会場がざわめく。
国王が立ち上がろうとして、王妃がさりげなく制した。
「ベルーナ伯、お怪我はありませんか」
セリーナが言った。会場に響き渡るような、強い声だった。
緊迫した空気が消えて、ベルーナ伯は少し固い顔で頭を下げた。
「セリーナ様、申し訳ありません。私、セリーナ様がお近くにいらっしゃると思うと、なんだか舞い上がってしまってしまいまして、とんだ粗相をしてしまいました」
セリーナは、ゆったりと微笑んだ。
「よいのですよ。今日は舞踏会ですから。私のお披露目など気にせず、楽しんでください」
「感謝申し上げます」
「ルシアも」
ルシアは、申し訳なさそうに微笑んだ。
「はい」
「音楽を」
セリーナの合図で、楽団がまた音楽を奏で始め、皆が踊り始めた。
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