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4.父との会話
「セリーナ様、たまには外に出かけませんか?」
ルシアがセリーナの話し相手になって、ひと月経った頃。何気なくそう言った。
その途端、セリーナの顔が固まった。顔色が、みるみるうちに蒼くなっていく。
ルシアは、何かまずい事を言ったのかと不安になる。
「あの……、気が進まないのであれば無理されずとも良いのですよ。ただ、その、部屋にばかりいては退屈ではないかと。最近町に新しいカフェが出来たとかで、リンゴのパイが美味しいそうです……よ……」
セリーナは、ガタガタと震え出す。顔には大量の脂汗をかいていた。
「大丈夫ですか。お身体の具合でも……」
セリーナは、震えながら言う。
「だ、大丈夫です。い、いい行きます。私、い行きます」
「あ、の」
――全然大丈夫じゃない。
「あの、無理なさらないで下さい」
「む、む無理じゃないです。い、い行きます」
ルシアは、段々気の毒になってきた。自分の仕えている方に辛い思いをさせたくなかった。
ルシアは、跪いて、セリーナの手に自分の手を添えた。血の気の引いた手が冷たかった。
「セリーナ様。また今度にしましょう」
セリーナの目に涙が溢れた。
「ごめんなさい」
セリーナは、顔を伏せた。その拍子に涙が雫となってルシアの手の甲に落ちた。
ルシアは、悲しかった。この方の涙を止めてあげたいと思った。
――どうしたらいいのだろう。どうしたら……。
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