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5.白百合騎士団
それから数年後。
誘拐事件をきっかけにしてひきこもりになった王女の為、女ばかりの騎士団がつくられた。国王と王妃は、専用の警護がつけばセリーナ王女も外に出て行けるのではないかという忠臣の公爵の提案に対し、決断したのだった。
最初は女の騎士がいなかったので、団長はロゼル聖騎士団長を引退したアルフレドが引き受けた。彼は女の騎士を養成するところから始めた。その中で一番早く頭角を現したのが、今は副団長のルシアだ。
セリーナは徐々に外に出る事が出来るようになった。
以前は自分の部屋に閉じ籠っていたのが、表情も本来の明るさを取り戻していった。
今、セリーナは、白百合騎士団の訓練の様子を見学していた。
皆、身体にフィットした白く美しい鎧を付け、剣技の訓練をしている。
セリーナは、頬を赤らめて、その様子を見つめる。
「ああ、皆、かっこいい! ルシア、素敵!」
セリーナは、皆に差し入れを持って、頻繁に訓練の見学に来ていた。まるで推し活の様であった。
数日後。王都のカフェ。
「んー。美味しい!」
セリーナは、リンゴのパイを頬張りながら満面の笑みを浮かべた。
「ようございました」
同じテーブルに座るルシアが微笑んだ。ルシアは白百合騎士団が出来た頃から外でも男性の着る服を着る様になった。髪だけは切らないでくれと母に懇願され長い黒髪を後ろで縛っている。それがまた凛々しく男の服装と良くなじんだ。
二人は、良くこのカフェに来るようになった。周りは、防護用コルセットを装着しその上にワンピースを着た白百合騎士団が目立つことが無い様にさりげなく警備をしていた。
「ねえ、きいて、ルシア」
「何でしょう?」
「私、そろそろ社交界デビューしないといけないの」
「左様で」
「無理だと思うの」
ルシアは、苦笑を浮かべる。
「何故ですか?」
「だって、知らない人の中に入って行くなんて無理よ」
セリーナは、公務などで外に出るようにはなったが、人見知りが激しくなっていた。
ルシアは、微笑んだ。
「そんなことありませんよ。警備は白百合騎士団で行います。安心して下さい」
「それは、ありがとう。でも、無理」
「何故ですか?」
「だって、怖いじゃない。全然知らない人たちばかりなのよ?」
「でも、セリーナ様は、公務で知らない方ともお会いになってますよね」
「公務は平気なのよね。ねえ、きいて! 母が舞踏会を開くと言っているの!」
「お披露目の会ですね。楽しみですね」
セリーナは、ぶんぶんと首を横に振る。
「無理! 無理無理無理! 絶対無理!」
「セリーナ様、大丈夫ですよ」
ルシアはセリーナの手を握った。
セリーナは、ルシアを見た。ルシアの手は温かい。
「人の事は気にせず、まずダンスを楽しまれたらどうでしょうか。それから貴族の方々に慣れればいいのですよ」
「ルシア……。そうね。きっとそうだわ」
セリーナは、前向きに考えようと思った。
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