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6.社交界デビュー
「一月後ですからね、セリーナ」
セリーナの母でもある王妃が穏やかに言った。
夕食の最中であった。母は、セリーナを社交界にデビューさせるその日を伝え覚悟を決めさせた。国王である父は二人の間で黙々と食べていた。
セリーナは、顔を真っ青にした。やっぱり急に前向きにはなれない。
「無理です」
「我がまま言わないの」
「だって、知らない人の前に出るなんて……」
セリーナは、消え入るような声で言う。
「公務には出ています。それでいいのではないでしょうか」
王妃は穏やかに頷く。
「公務には出ているわね。その為の白百合騎士団ですから。でも、このままと言う訳にはいかないわ。あなたは王家の娘なんですから」
「……それは……」
「婚約者の候補を絞り込む為にも、あなたは社交界にデビューしないといけない。あなたはもう、その時期を1年も過ぎているの。これ以上の我儘は許されないわ」
母の語り口は穏やかだったが、言葉には緊張感があった。それ故、父は口を挟めなかった。
セリーナは俯いた。
「……はい」
「怖いのは分かるけれど、これ以上逃げ続けるのは、あなたの為にもならない」
「……はい」
「踊りは良い先生についてもらいますから。しっかり覚えなさい」
「はい」
と、答えたものの、セリーナの声は一段と小さかった。
「大丈夫、あなたなら出来るわ」
母の力強い言葉に、セリーナは、やっと顔を上げた。だがやっぱり怖い。
翌日、早速ダンスの先生がやってきた。
セリーナは、引きこもりになった事をきっかけにして多くの授業から遠ざかっていた。なので、ダンスのレッスンはこれが初めてになる。ばつが悪かった。
「まだひと月ありますから、焦らずやりましょう」
「はい」
二人はレッスンを始めた。
ところが、セリーナお披露目の舞踏会を前に、白百合騎士団について良からぬ噂が流れ始めた。
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