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叶わぬ恋
中学二年生の秋。
私は今、恋をしている。
けれど、叶わぬ恋だ。
「小宮さん、おはよう」
彼の名前は大音楽。
だって大音くんは学級委員で、足も速くてスポーツ万能、勉強はあまり得意じゃないって言ってるけど、嘘だ。学年トップの成績で、いつも誰よりもピンと伸びた背筋で、授業を真剣に聞いているのを、後ろの席でいつも見ている。
「大音くん……おはよう」
私の名前は、小宮琴音。
それに比べて私は冴えない。役職はないただの図書委員、足は遅いしスポーツは全くと言って良い程ダメ、勉強は頑張っているけど得意じゃない教科は平均点ぎりぎり。
大音くんが名前の通りに、大きくていつも楽しそうなのに対して、私はいつもおどおどびくびくしてしまっている。
『小宮は小宮って言うより、コミュ症のコミュって感じだな!』
『ちょっと!あんたなに言ってんの!琴音も言い返しなさい!』
なんて、クラスの男子にからかわれても言い返せず、親友の高田舞ちゃんが代わりに怒ってくれたことが懐かしい。
今だって、挨拶を返すだけじゃなくて、ちゃんと話でも出来たら良かったのに、教科書を見ているフリしてそのまま、固まってしまった。
ううん、無理だ。
大音くんはクラスの人気者で、その周辺にはずっと誰かがぴったりくっついてる。同じバスケ部の男子に、明るい性格の女子。もし話しかけようものなら、その人たちの視線にずっと曝されることとなる。
そんなの絶対に無理だ。
ほら、花や動物だって、遠くから見ているのが一番良いって言う。
それに話しかけたとしても、会話が続かないし、そんな私を大音くんが気遣ってくれるだろうと容易に想像が付いて、なんだか申し訳ない。
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