6人が本棚に入れています
本棚に追加
《破滅兵器》
ある場所にて研究者たちは顔を合わせ、眠っている少年について話していた。
その者がどういった存在なのかはわからない。だが、危険であることは確かだ。しかし、危険だからこそ――魅力的ではある。
「さて、こいつをどうするか。とりあえず、一つの街でも潰すか?」
一人の研究者が声を上げる。すると口々にほかの研究者が興奮した様子で話し出す。
「こいつが成功すれば、破滅兵器として稼働できるぞ?」
「莫大な金も入るかもしれない」
「まぁとりあえずだ。どこの街で実験台にするか、だ。――だが決まっている場所はある」
その者はある場所を仲間に伝えた。そこは日本の割には治安が悪く、犯罪者も多いと言われている街だ。
この場所が一つ潰れたくらいで、日本は震撼するかもしれないが……同時に賞賛するかもしれない。
研究者たちは賛同して頷いた。
「それでは”バビロン”。――起動しろ」
眠っているバビロンがゆっくりと起き上がる。バビロンは背が低く、少年のような姿をしていた。
瞳が虚ろであったが、バビロンは無言で頷いて……研究所から立ち去った。
だが予想外のことが起こった。
バビロンは街へと向かっていたのだが、人間たちの幸せな姿を見て考えを改めたのだ。研究者たちには人間は卑劣で欲深く、下劣で最低な生き物なのだと教えられていた。
だが人間たちを観察すると、そんな風には見えないのだ。
疲れた表情で電車に乗っているサラリーマン、イチャイチャするカップル、子供を抱えた女性、家族でご飯を食べている……充実した幸せな空間。
「……僕は、こんな興味深い人たちを、殺すのかな?」
バビロンは長考した。自分は幸せな人たちを殺すことはないのではないかとバビロンは頭を過らせる。
バビロンは指定された街に着いた。そこは確かに治安の悪い、ガラの悪い連中でたむろっていた。
ぼんやりと眺めていると複数の人間がバビロンを取り囲んだ。
「おいおい、坊主? なに、こんな夜中に居るんだぁ?」
「ママとはぐれたのか~?」
「みぐるみ剥いでこっち寄こせよ~」
バビロンの銀色の瞳が瞬き、銀色の髪をなびかせた。バビロンが動いた瞬間に相手に一撃を与えた。それから二人目は股間を蹴り上げて塞ぎ込んだうちに顔面を殴り飛ばす。
最後の一人の拳を躱して体当たりをしてから、顔面を殴り上げた。
「つ、強ぇ……」
最後の一人が意識を飛ばした際、バビロンはほっつき歩いた。
動いて腹が空いた。空腹感がある。
これが生きている証拠だとバビロンは感じた。そして思う。――破壊するのは良くないと。
ふと、自分の孫のように育ててくれた存在を思い出した。コーンスープが絶品でよく作ってくれた。
ゴミ捨て場へふらふらと行く。
それから眠るようにバビロンは横たわり――意識を低下させた。
バビロンは否定したかった。それは自分が破滅兵器だというのを覆すことだ。
「ルイス……。僕は、平和に暮らしたいよ」
涙が流れているわけでもないのに、バビロンは涙を流したかった。
最初のコメントを投稿しよう!