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わたし、あなたが嫌い。
不意に言われたことば。
カリンは、そう言った親友を見つめた。
仲良くなって、二年。
今までこんなこと言われたことがない。
喧嘩がなかったとは言わないけれど、直ぐに仲直りした。
そばで笑い合うことが、ずっと続くと思っていたのに。
ミウは違ったらしい。
なんで、と言う言葉すら出てこなかった。
涙も出ない。
驚きすぎると、いや、判断が直ぐに出来ないと人は声も涙も出なくなると初めて知った。
そう、と小さく呟くことしか出来ない。
「じゃあ、これきりだね」
やっと絞り出された九音は自分で思ったより冷たく響いた。
朗らかで、明るいミウ。
冷静で、頭がいいカリン。
反対どおし気が合っていたのに。
歪みに気づかなかっただけなのか。
「え」
今度は、ミウが驚く番だった。
なんで、と小さく聞こえる。
先程、カリンがいえなかった言葉だ。
「なんでって……嫌いって言われて仲良く出来ないよ」
「かり、ん………」
じゃあね、とカリンは背を向けて歩き出す。
一人になったミウに、突如として電流が流れた。
「きゃああ」
悲鳴を聞いて、カリンは今歩いてきた道を駆け戻る。
やっと、姿を現したわね。
彼女の手には、小さなステッキ。
走りながら、胸元にかざす。
小さく呪文を唱えれば、彼女の衣装が変化した。
仲がいいふたりを引き裂く怪物がでる、と噂になっていた。
一人になって絶望しているところに電流を流し、精神的にも肉体的にもぼろぼろにする。
魔法少女であるカリンとミウは、退治を頼まれていたのだ。
だから、その怪物を誘き寄せるために一芝居うった。
駆けつけると、ミウもコスチュームに着替えていた。
シールドが彼女を電流守っている。
「出てきなさい、卑怯者!」
カリンが叫ぶと、大男が姿を現した。
「なんだ、芝居か」
忌々しげに呟く男に、カリンはステッキを持ち直す。
なんだ、そんなもの。
せせら笑う男の後頭部に、衝撃が走る。
「これは武器じゃないのよね。油断大敵よ」
語尾にハートマークがつく軽やかな口調で、カリンは笑う。
ステッキから出した大きなコンクリートが男の頭に直撃したのだ。
「こんなん、アリかよ……」
男がくずれおちる。
殺傷能力はない。
魔法なので、傷もできない。
ただ、痛みは三日抜けない。
「これに懲りたら、二度としないことね」
静かに言って、ミウを見る。
「カリン……」
「あなた、演技がうますぎるわ」
よく持ち堪えたわね。
初めの一撃でぼろぼろになったミウの背中を叩く。
「ありがとう」
「こちらこそ」
二人は顔を見合わせ、笑った。
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