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「「「乾杯ー!」」」 幾つかの声が行き交い、グラス同士がぶつかる小気味のいい音が響いた。 学生に人気のこの店内には俺と同じ年齢くらいの客が何組も見受けられ、週末の居酒屋らしい賑わいを見せていた。 俺のバイト先もこの店と同じような居酒屋だからか、酒を煽りながら騒ぎ立てる様子はもう随分と見慣れたものになりつつある。 「空大くんが飲み会に参加するの珍しいね?」 冷えたビールを喉に流し込んでいると隣からふとそんな言葉を投げかけられた。 声の主はバイト仲間である同い年の女の子、萩野(はぎの)ちゃんだ。萩野というのは苗字だけど、みんな親しみを込めて“ちゃん”付けで呼んでいる。 「そうかな?」 「そうだよー!誘ってもいつも断るじゃん!」 レモンサワーが入っているグラスを少し強めにテーブルに置く萩野ちゃんは、ふんわりしている見た目とは裏腹になかなかの酒豪だ。 その証拠に、さっき乾杯を交わしたばかりだというのにグラスの中身は半分以上減っている。 “そうかな?”なんて惚けてみたけど正直、心当たりはある。ていうかありすぎるくらいだ。 俺のバイト先には萩野ちゃんに限らず、酒を飲む事が好きな人が多い。それ故、ほとんど毎週といっても過言じゃないくらい頻繁に飲み会が開かれる。もうここで働き出して半年以上が経つけれど、開催された飲み会の数は数え切れない。 そんな中、俺が顔を出すのは歓迎会だったり、今日みたいな送別会だったり。つまり、重要だと思うものにしか極力参加していない。 こういう場が嫌いなわけじゃない。寧ろワイワイと騒ぐのは好きな性分だし、酒も飲める方だし。 ただ…… 「萩野ちゃん、仕方ないよ。空大は彼女とイチャイチャしたいお年頃だかんね」 俺と萩野ちゃんの会話に割って入ってきたのは向かいに座っていた朋美(ともみ)さん。 朋美さんは俺よりも二つ年上で、しっかり者でサバサバしている、少し姉御っぽい人だ。 ニヤニヤとした笑みを携えながらグラスを煽る朋美さんの言葉に、俺よりも萩野ちゃんの方が早く反応した。 「うわ!出たリア充!撲滅しろ!」 「撲滅って…」 「あたしも萩野ちゃんに一票~」 さっそく酔ってんのか、いつにも増して口が悪くなっている二人に失笑しか出てこない。 「で?空大のきゃわいい彼女のお名前は?」 なんだよ、きゃわいいって。 「…なんでそんなこと言わなきゃいけないんですか」 「出し惜しみすんじゃねー!名前くらい言え!」 「そうだそうだ!」 迷惑よろしくテーブルをバンバンと叩き出した二人に頭を抱えそうになる。ほんっと酒癖悪いな、この人達。 こうなったら最後、きっと言うまで解放されない。 そう悟った俺は、ハァ…と重い溜め息を吐き出したその口で、 「…未唯奈(みいな)」 普段あまり呼ばないその響きを放った。
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