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1:出来損ないシンデレラ
東京は、人が多い。
そんな当たり前のことを頭に浮かべてしまうくらいには、人の多さに圧倒されていた。
私はこの場所に、片手で数えるほどしか来たことがない。
1度目は中学生の時に修学旅行で、2度目は高校生の時に、親戚の結婚式で。
そして3度目は、だいすきな人に、会いに。
「……よし、」
今日は、人生4度目になる、東京観光の日。
キャリーバッグがパンパンになるほどに詰めたのは、4日分の荷物。
とりあえず一番近くにあった駅地下のコインロッカーにそれを預けて、最初の任務が完了したことに小さな声を零した。
どれだけ辺りを見渡しても、人が居ないところが、全くない。
ここは、そういうところだ。
今までに今回を含めて4回しか来たことがないけれど、来るたびに思う。
私は東京で、生活なんてできっこない。
方向音痴なうえに、地図の正しい見方も分かっていない。
そんな私がこの場所で生息するのは、どう考えても無理があると思う。
よし、と意気込んだところで現状は何も変わらない。
いきなり方向音痴が治るわけでもないし、はたまた急に地図の見方が分かるようになるわけでもない。
「えっと……どっちに行けばいいんだっけ……」
到着早々、この有様だ。
視線を右往左往させてみても、勿論のこと知り合いはいない。
至る所にある看板を片っ端から見てみても、一体どちらに向かえばいいのか分からなかった。
所謂田舎と呼ばれる地域に住んでいる私には電車なんて縁遠い乗り物で、こんなに人が居るような駅に出向く事なんて皆無だから、こうなることは正直、想定内ではある。
でも、さすがに駅まで迎えに来てもらうのは気が引けて、つい、この後ランチをする予定のカフェまで一人で行けるよ!と友達に言ってしまったのだ。
少しお金が勿体ないけれど、タクシーでカフェまで向かうのが一番いいかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
とりあえずここを出なければ始まらないと、足を前に踏み出した、その時だった。
コートのポケットの中が、微かに振動し出す。
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