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『で、あんたどこら辺にいるの?』
そう聞かれて、スマホを耳に当てたまま、辺りをキョロキョロと見渡す。
目印になりそうな建物や看板をいくつか挙げると、美沙はそれだけで私が居る場所が推測できたようで『分かった、そこで待ってて』と早々に通話を切った。
そしてその十数分後、美沙は私の前に現れた。
「やっほー」と手を振る姿に、タタタッと駆け寄る。
「美沙、久しぶり」
「うん、久しぶりね」
「ていうかすごい!あんな説明で、よく私がここにいるって分かったね?」
「あのね、何年ここに住んでると思ってんの。分かって当たり前だから」
当たり前だと言いながらも、美沙の表情は少し得意気で、くすくすと笑ってしまう。
「んじゃ、行こっか」
カツカツとヒールを鳴らしながら、背筋をピンと伸ばして歩く美沙の姿は、都会と呼ばれるこの地によく似合っている。
とても、私と同じ田舎で育ったとは思えない。
幼い頃から上京を夢に見ていた美沙は、当然のように東京の大学に進学。
この人の多さにも建物の多さにも、全く怯む様子など見せずに、あっという間に都会に溶け込んでいった。
「……」
今でもたまに、考えてしまう。
私が美沙のようにこの地に溶け込めるような人間だったら、少しは違った未来が待っていたのだろうか、と。
他人に聞かれたらきっと馬鹿馬鹿しいと笑われてしまうようなことを、私は未だに、頭の隅でひっそりと考えてしまうのだ。
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