1:出来損ないシンデレラ

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「違うよ!確かに、近いのは私も知ってたけど、そういう理由で選んだんじゃないもん」 「そうなの?まあどっちにしろ、せっかくなんだし、ちょっと覗いてみる?」 「……いい」 「なんで?松崎(まつざき)、居るかもよ?」 その名前を聞くだけで、私の胸がどれだけ苦しくなっているかなんて、この世の誰も、知らなくていい。 まるでその動作しか出来ないオモチャのようにふるふると首を横に振る私に、美沙は「ふぅん?」納得がいっていないような声を零してから、足を前に踏み出した。 「私、未だにあんた達が別れた意味が分からないんだよねー」 もし“別れ”に意味があるとするなら、私もまだそれを見つけられていない。 ただ、あの痛いだけの別れから2年が経つ今も、苦しみの中をもがき続けているだけだ。 「あんた達、なんで別れたの?」 彼との別れの詳細は、誰にも話していない。 親よりも近い位置にいて、なんでも話せる友達である美沙にも、話していなかった。 “別れた”という事実を告げるだけでも、精一杯だった。 「まぁ言いたくないなら言わなくていいけどさ。まだ、好きなんじゃないの?」 「……」 その問いに、首を横に振ることができなかった。 手をぎゅうっと握りしめて下唇を噛む私を振り返った美沙は、また困り顔で笑って、綺麗なネイルが施された指先で私の頬を軽く抓った。 「そんな顔するなら、会いに行っちゃえばいいのに」 ……ごもっともだと思う。 東京に住む従兄弟(いとこ)(けん)ちゃんの娘の誕生日会に招かれて、東京を訪れることが決まってから、もうずっと、そわそわしている。 どこかで偶然会えるんじゃないかと、そんな、期待にも似た感情が、止まらない。 会いたいか会いたくないかで言えば、確実に会いたい。 でも、たぶん、今さら、だから。 私は会いたくても、彼は私になんか会いたくないと思うから。 だから、故意的に、会いには行かないと決めた。 だから、うんざりするほど人で溢れているこの場所で、奇跡のような“偶然”を願うしか、ない。
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