1:出来損ないシンデレラ

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結局、そのカフェから少し歩いた最寄りの駅で解散することになった。 名残惜しい気持ちもあったけれど地元で行われる新年会に美沙も参加する予定だし、またすぐに会えるだろうから今回のバイバイの時の寂しさはいつもよりかは少なく感じたと思う。 ホテルまで着いて行こうか?と提案してくれた美沙に、それは本当に大丈夫だから、と念を押して、駅の前で別れた。 一人になると、途端に周りの喧騒が大きく響いて聞こえてくるのはどうしてだろう。 改めて見ると、本当にどこもかしこも人で溢れている。 「……よし」 人の多さに圧倒されないように、ここに着いた時と同じように意気込んだ私は、すぐ近くに立っていた駅員さんに「すみません」と声をかけた。 「あの、このホテルに行きたいんですけど…」 さっき美沙もホテルまでの行き方を教えてくれたけれど、正直、新年会の話をしているうちに全て忘れてしまったので、気を取り直してもう一度尋ねてみることにした。 推定30代半ばくらいのその男の駅員さんのつぶらな瞳が、私のスマホの画面を覗き込み「あー」と間延びした声を零した。 「これ、〇〇町なんで、まず××線に乗ってそこから二駅で降りて次に△△線に乗り換えて――……」 1分足らずで説明してくれた道順は、全くといっていいほどに理解できなかった。 それでも丁寧に説明してもらった手前、分かりませんなんて到底口に出来るわけもなく、引き攣りそうな笑顔を浮かべて「ありがとうございます」と頭を下げるのが精一杯だった。 一応、電車に乗ろうと試みてみたものの、数秒で諦めた。 もしホテルとは逆方向に進んでいってしまったら大惨事だ。 そんなことになるくらいなら此処からタクシーを使った方がマシだろうという結論に至り、早々に駅を出て、大通りに停車しているタクシーに乗り込んだ。
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