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相変わらずの日々に忙殺されながらも、変わらない毎日を送る。外科領域の研修期間が被っている神代に無駄絡みされるくらいで、それ以外は平和な日々を過ごせているように思う。
---否、思っていた。
「は?オマエ、なんでまだ病棟にいるの?」
救急対応を切り上げたのが、午後10時を回る頃だった。外科病棟の医師記録室に戻ってきたオレは、何故かその部屋に併設されている簡易ベッドに眠っている神代の姿を見て驚く。
「北條先生、お疲れ様です…。医師マンション、暫く帰れそうにないので病院に住み着くことにしました」
「は、オマエドMなの?勤務時間以外病院から離れればいいのに」
「どうせ明日の朝には来ますからね」
「そもそもなんで帰れないワケ?」
「あー、そっか。北條先生自宅暮らしだから知らないんですねぇ。…昨日ちょっとしたボヤ騒ぎが隣の部屋であって。窓を開けてたら煙が入って来て盛大にスプリンクラーが作動しました。部屋今水浸しで、もろもろ修理が必要になっちゃって」
---なんとまぁ、不憫なことだ。疲弊しきったその顔にはクマが見える。昨日の仕事終わりにそんな目に合ったのも含めてだろう、いつもの無駄な生気が伺えない。
「神代」
その姿にため息を吐いて、とある“モノ”を投げつけた。
慌ててキャッチをした不恰好な姿と、驚いた表情をした神代を見つめながら。
「それ貸すから、---オマエは先に家に行ってろ」
自分の家の鍵を、とりあえず神代に投げ渡す。オレもまぁ、大分世話焼きが回ったものだ。
「え、…でもっ、申し訳ないですし…っ、」
「今更。オレも記録書いたら帰るから」
「…駄目ですよ。北條先生も疲れてるのに、他人がいたら、余計、」
申し訳ないと思うなら、オレの家に来た初日にその心を持っていて欲しかった。
「疲れてる“から”、だよ」
「え…?」
「まだ気力残ってたらオムライス作って待っててくんない?卵と米とケチャップはあるから」
「北條先生…っ、」
「難しそうだったら適当に弁当買って帰るし。疲れてるんなら勝手にシャワー浴びてベッド使っていいから。そんなぐったりされた様子でいられると気持ち悪い」
「オムライスを食べたい北條先生、---超可愛い…っ、」
---コイツやっぱり道端に投げ捨てようかな、と数分前の自分の言動を後悔した。
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