162人が本棚に入れています
本棚に追加
店内に入ると、がやがやとした喧騒が一気に耳に流れ込んできた。土曜日という事もあってか、既にたくさんの人で賑わっている様子だ。
「ねえっ、あの海望って子、めちゃくちゃイケメンじゃない!?」
店員さんに案内されるまま店の奥へと進む途中、クイクイと服を引っ張ってきたルナが興奮気味に、そう耳打ちしてきた。
「うん、あれはやばい。想像以上だわ」
「なんかあの人に似てない?ほら、韓国アイドルグループの……」
耳打ちされた名前は、芸能人に疎いあたしでも知っているくらい、有名な人の名前だった。
確かにアンニュイな雰囲気とか、中性的なのにどこか男の色気を感じさせる顔立ちとか、似ているかもしれない。
「ルナ、もしかしてエージくんより海望くんの方がいい?」
「えっ!そんな事ないよ!エージくんの方が話やすそうだから、むしろ私はエージくんがいい」
「ほんとに?じゃあ、あたしが海望くん食べちゃってもいい?」
「ちょっと〜〜その言い方なんかいやなんだけどぉ…」
なんと言われようが“食べる”事には変わりない。もう一度、念を押すように「いい?」と聞いたあたしに、ルナは少し笑いながら「いいよ」と頷いた。
「やっぱり朱架ってすごいなぁ」
よっし!と脳内でガッツポーズを決めているあたしの隣で、ルナが独り言のように、そう呟く。
「なにが?ケツの軽さ?」
「ちょ、それ自分で言わないでよ。って、そうじゃなくて」
「うん?」
「だって私、あんなカッコ良い男の子とシちゃったら、もう好きになりそうっていうか…」
「いやいや、さすがに1回シたくらいで好きはないでしょ」
ケラケラと笑うあたしに「ていうか、普通は順番が逆だからね」とルナのするどいツッコミが入った。たしかに。ごもっともである。
「朱架もついに、沼っちゃうかもよ?」
沼て。
ズブズブにハマっちゃうってこと?
このあたしが?
んなバカな。
ちょっと悪戯っぽく笑ってくるルナに、「無い無い」と笑いながら否定した。
――恋愛なんか、真っ平御免だ。
最初のコメントを投稿しよう!