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そんなこんなで、4人で飲み出して早1時間。
場の空気は楽しく和やかに流れていた。
話題は、兄弟いる?とか、どこ出身?とか、取るに足らない在り来りなものばかりだったけれど、それでもつまらなく感じなかった。
そして今のテーマは“犬派か猫派どっち?”というところまで流れ着いていた。
「え〜〜じゃあエージくんは猫派なんだ?」
「はい。実家で猫2匹買ってたんで、やっぱり猫の方が可愛く見えちゃうんですよね」
「実家で飼ってたんだ?写メとかないの?」
「あ、ありますよ。ちょっと待ってください」
ルナとエージくんも最初の緊張が解けたのか、楽しそうに談笑している。その様子を横目で見つつホッと安堵する。
ちらり、向かいに視線を移すと、今まさにジョッキを煽ろうとしていた海望くんと視線がかち合った。
真正面からまじまじと見ても、やっぱりイケメンだ。イケメンというよりも、美少年という言葉の方がしっくりくるかもしれない。
あたしの視線に気づいた海望くんは「ん?」と首を傾げる。
ああ、その白い首筋が眩しい。美味しそう。噛みつきたい。
「海望くんは犬派?猫派?」
「俺は断然、犬派ですね」
「へぇ、なんで?」
「だって犬って、忠実じゃないですか」
ジョッキの中のビールを一口流し込めば、男らしく隆起した喉仏がごくりと上下に動いた。その光景が、やけに艶かしい。
「なんでも言うこと聞くし、呼んだら寄ってくるし」
「あたし飼ってたことあるけど、猫も呼んだら寄ってくるよ?」
「でも猫って基本、気まぐれでしょ?」
「あー……まあ、そうかも。なに、気まぐれは嫌なの?」
ふふ、と、ちょっと笑いながらそう聞いたあたしに海望くんも真似するように少しだけ口角を上げる。
「嫌ですね」
「……」
「俺が呼んだら、必ず寄って来てくれないと、嫌です」
ふーん。
ちょっと可愛いとこあるじゃん?
不覚にもキュンとしてしまった。
相手をそういう対象として見る上で、“顔”っていうのは割と重要だと思う。あたしにとっては“割と”どころか“かなり”なんだけど、でも、ただ顔が良けりゃそれでいいってもんじゃない。
例えば喋り方だったり声のトーンだったり。
話す時の波長とか、笑いのツボとか。
そういう些細なところでも、あまりにズレすぎていると“あー、ナシだな”ってなるんだけど、どうやら今回はその心配は無用だったようだ。
海望くんは、そこまで感情豊かってわけじゃないけど、ずっと仏頂面って事もない。話題も続けようとしてくれるし、声のトーンも話す時の波長も、すごく、落ち着く。
ごそごそとポケットから煙草のケースを取り出した彼は、それをあたしに見せるようにチラつかせた。
「煙草、吸いに行ってきます」
「あ、うん。どうぞ」
ガタリ、席を立った海望くんは黒いマフラーをぐるりと首に巻き付けて、あたしを見下ろす。
その射抜くような瞳にがっつり上から見下ろされると、迫力がすごかった。極めつけに甘く微笑んできたりするから、否応なしに胸がドキリとしてしまう。
「…いっしょに来ます?」
気づいたら、頷いてしまっていた。
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