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薄暗い空間で、ガタガタと音が立つ。
「っちょ、―――んんっ」
扉を閉めた瞬間、荒々しく口を塞がれたのにはさすがに驚いた。
涼しそうな顔してたけど案外 肉食系なの?と笑いながら揶揄いたかったけれど、そんな暇すら与えてくれないくらいには情熱的な口づけだった。
「っ、ねえ」
胸を押しのけながらなんとか声を発すると、まだくっつきそうな位置で海望くんのそれが「なんですか」抑揚のない声を紡ぐ。
濡れた唇に掛かる吐息は熱いのに、紡ぎ出された声はやけに冷静で、なんだか ちぐはぐだった。
「あたし、あんまりキス好きじゃないんだけど」
眉を寄せながらそう言えば、海望くんは至極どうでも良さそうに「へぇ、そうなんですか」と相槌を打つ。そして鼻先を擦り寄せて、薄く笑った。
「まあでも、俺は好きなんで」
後頭部に回った大きな手にグイッと引き寄せられて、さっきよりも深く唇が合わさる。
「っん、ぅ」
まるで、噛み付くようなキスだった。
あたしの言い分なんてこれっぽっちも聞き入れようとしない男は、キスを繰り返しながらどんどん部屋の奥へと進んでいく。
失敗したかも、って少し思った。
だって顔が良い男って、だいたい自分本位のセックスをしたがるから。そして目の前の海望くんは完全にそのフラグが立ちまくっている。
それに気づいたところで、もう遅い。既にベッドに組み敷かれているのに、今から逃げ出すなんて不可能だ。
半ば諦め気味に、目を閉じた。
どうせ雑な愛撫と前戯のあと、雑な抽挿を繰り返して、一人で勝手に気持ちよくなるんでしょ、って―――
そう思っていたのに。
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