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本来予知書は本人の死まで綴って完結となるのだが、俺のは母から託された段階で最後の一ページ、すなわち死ぬ運命が書かれたはずのページが破り取られ、ギザギザとした切れ端だけが残されていた。
いったい誰が破り取ったのか、母か、父か、あるいは宮司の仕業か(本人以外が予知書を開いたり予知の内容を知ることはタブーとされているのに、不躾な話だ)、またその目的が何なのかも分からないが、別にどうでもいいと俺は思っている。どのみち破られているのは一ページだけなので死ぬ日は明白だし、それさえ分かれば死に方なんてさほど重要じゃない。
と、思っていたのだけれど。
いよいよ明日死ぬとなった今、死に方が分からないのは少しだけ怖いと思う。急な心臓発作か、事故か、それとも別の何かか……いずれせよ、あまり苦しまない死に方であると願いたい。
「光輝くーん。お風呂沸いたよー」
キッチンの方から星良の声がする。俺が明日死ぬなんてまるで考えたこともないような、のほほんとした声だ。
予知書の内容はもちろん星良には伝えていない。俺と違って心の準備ができない分悲しみも深くなるだろうが、せめてものことはしてきたつもりだ。
例えば、俺の死後家のローンで苦しまないよう高額の生命保険を組んだし、愛をたっぷりしたためた遺書もすでに自室のデスクの中に忍ばせてある。他に俺にできることと言えば、星良が悲しみを乗り越える運命にあることを祈るぐらいだ。
「ありがとう。すぐに入るよ」
俺は返事をして予知書を開く。十月四日、つまり今日の予定を今一度確認する。
今日のこの後は……お風呂に入って寝るだけか。せめて最後の夜ぐらい、星良とゆっくり晩酌でもしたかった。が、予知書に書いてないということは誘ったところで断られるのがオチだろう。
これまでにも何度か、予知書に記された内容に抗おうとしたことがある。だけどそのたび俺のたくらみは、運命という強大な力の前にいとも容易く退けられてきた。
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