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例えば中学生の時。野球部だった俺は全国大会出場を目指し、日夜白球を追い回していた。予知書によると最後の夏は県大会決勝で敗退。だけどこの頃の俺はまだ、運命とは簡単に変えることのできるものだと思っていた。
なんならむしろ燃えたぐらいだ。この最高の仲間たちと一緒にどんな逆境だって乗り越えてみせるぜ、と。
順調に勝ち進み、迎えた決勝。俺たちのチームは九回表に五点ビハインドから打って打って打ちまくり、奇跡の大逆転を果たした。しかし、あとは九回裏を抑えれば勝利という場面、空から突然の豪雨が降り注いだ。
試合は一時中断ののち、すでに終了していた八回までの結果で雨天コールド負け。俺は落胆した。運命という見えない糸に足を絡み取られ、びしょ濡れのグラウンドに惨めにうずくまった。
その他にも、高校時代。大好きなあかねちゃんと予知書通り付き合えたはいいものの、わずか三ヶ月で振られると予知書には記してあった。
俺は全力で良い彼氏を演じた。あかねちゃんの好きなものは何でも好きになろうと努力したし、どんなわがままだって聞いた。せめて一日だけでも予知書に記載された破局日よりも長続きさせたかった。それはもはや恋心のためではなく、運命への抵抗のためだったかもしれない。
だけど結局、俺は予知書の記載通りの日に振られた。理由を聞いても「なんか冷めちゃった」の一点張り。土下座までしたけどダメだった。
思えばこの頃から俺は、運命とは決して変えることのできないものなのだと理解し始めたような気がする。
その後もいくつか小さな抵抗を試みてはみたが、最終的に俺は諦め、全て受け入れることにした。予知書に書かれた悪い出来事を避けることはできない。だったら、無駄な抵抗はしないで少しでも傷口を小さくとどめるのが賢いやり方だ。
だから俺はこの人生最後の夜も星良を晩酌に誘うことはしない。予知書に記載の通り、風呂に入ったらさっさと髪を乾かし、布団に入ってしまおう。俺は予知書を閉じ、替えの下着とパジャマの準備を始めた。
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