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翌日は突き抜けるような快晴だった。
一つ大きな伸びをした俺は毎朝のルーティーンどおり予知書を開こうとし、そういえば今日の分のページは破り取られていたのだったと思い出す。
困った。予知書が無いと何をしていいのか分からない。
分からないが、とりあえず朝ごはんは食べておいた方がいいだろうと思いリビングに向かう。
「おはよう、光輝くん」
星良はすでに起きて朝食を用意してくれていた。目玉焼きとクロワッサン、焼いたウインナー、そして簡単なサラダ。お昼まで生きているとは限らないから、これが最後の食事かもしれない。俺は心して星良の作ってくれた料理を味わった。
食後、ソファの上でだらだらしていた俺に、星良は尋ねた。
「あれ? 会社行かないの?」
言われて気付く。そうか、今日は平日だ。毎朝、予知書に「仕事に行く」と書いてあったら仕事に行く準備をしていたから、すっかり休日の気分でいた。
人生最後の日も仕事か。嫌だな……そこで俺は考える。このまま休んでしまえばいいのではないか。仕事に行く運命ならどう転んでも仕事に行くはずだし、休めるなら元々そうなる運命だったということだ。
「あぁ、今日は有休取ってるんだ」
俺は嘘を吐いた。突然のことにも、星良は少しも疑わず「そうなんだ」と言った。どうやら今日は休む運命だったらしい。続けて、星良は提案した。
「私も偶然お休み取ってるんだけどさ……良かったら、久しぶりに二人で映画でも観に行かない? ほら、せっかくの休日だし」
実に魅力的なお誘いに、俺は一も二もなく「行く」と即答しかけた。しかし、はたと立ち止まる。
俺は今日死ぬ運命なのだ。外で行動をともにしたりしたら、星良を要らぬ事故に巻き込んでしまう可能性はないか?
普通に考えれば、星良には星良の運命があってそれは最初から決まっているはずだから、俺がどうしようが関係ない。だけど……
人生で初めての不安に襲われる。先が分からないということが、こんなにも恐ろしいことだったなんて。
「いや、今日は疲れているから、家で休みたいな」
少し悩んでから俺は答えた。星良は「そっか」と物分かりよく引き下がった。
俺は星良に「ごちそうさま」と伝え、二階の自室に引きこもって一眠りすることにした。
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