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三一年前
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人間というやつはなんと愚かなことだろう。
最近、奴らは私のところに頻繁にやってきては、供え物を置いてゆく。
そして私の前で頭を下げ、繰り返すのだ。「予知書をお授けください。運命をお教えください」と。
供え物をもらったからには、神として、その懇願に応えなければならない。
だけれどそれは私の本意ではない。
実を言えば、運命というのは変えられないものではないのだ。ただそのためには並々ならぬ根性が要る。
そして予知書に頼っている限り、その根性は決して発揮されることはない。
なぜなら、人間はもし自分の運命を知っていれば、例えそれが自分にとって良いものでなかったとしても、受け入れるように動いてしまう。割り切って諦めてしまった方が楽だからだ。
ここに来る人間は皆目の前の不安を消し去るために、それを乗り越えた先のより良き未来を捨てている。
私はそれが口惜しくてたまらない。
なんて言っているうちに、また人間がやってきた。
他の者と同じように供え物を置き定型句を繰り返す彼女は、どうやら腹の子の運命を知りたがっているらしい。
私はその子の未来を見通して予知書を生み出した。
平均的な人間の半分以下の薄い予知書の最後のページには、こう綴られている。
最後の力で救急車を呼ぼうとするも叶わず力尽き、妻諸共死亡。
私は残念に思った。この子は誠に強く、優しい心を持っている。こんな形で早々に命を落とすには惜しい。
そこで私は咄嗟に、予知書の最後のページを取ってしまうことにした。運命の詳細を知らなければ、それに立ち向かう根性が息を吹き返すかもしれない。ごくわずかな可能性だが。
私は力を込めて最後のページを引き抜く。その瞬間、私の目には、二人の人間の死の運命が変わったのが見えた。
新たな結末に満足した私は、本殿の畳にごろんと大の字で寝転がり、やれやれと目を閉じた。
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