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翌日から豪に対するいじめが始まった。証拠こそ出てこなかったものの、クラス中が豪のことを財布泥棒の犯人だと信じ切っているようだった。
いじめの主犯格は原と福尾。彼らは厚顔無恥にも正義の執行者を演じ、クラスでの立ち位置をさらに盤石なものにしていた。
「あれ? なんかこのへん犯罪者臭くね?」
「ほんとだ。近くに泥棒でもいるのかな?」
そう言って福尾が豪に向かって消臭剤を吹きつける。皆がくすくすと笑う。豪は真っ赤な顔で俯いて、身体をプルプル震わせている。
「ていうか普通に汗臭ぇな。ちゃんと風呂入ってないんじゃねぇの?」
くすくす笑いが爆笑に変わった。俺はいたたまれず、目線を逸らして窓の外に逃げた。
「おい、堀川も何か言ってやれよ」
いつのまにか原が目の前に立っていて、俺に言った。ぱっと見にこやかな表情のようだが目が笑っていない。試されているのだと俺は思った。
「く、臭いから近づきたくないだけだよ」
「あはははは! それならしょうがねぇな!」
俺は嫌気が差した。何が、羽有人は清く正しい性質を持つ、だ。こんなことする奴らのどこが清く正しいんだ。
それを黙って見過ごす俺のどこが、清く正しいんだ。
何度も何度も止めなければと拳を握っては、結局勇気がなくてその拳をほどく。
俺が、真犯人は原と福尾だと言ったところで誰も信じない。それより後でこっそり豪の心のケアをしてあげた方がいいだろう。なんて、自分自身に言い訳をして。
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