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家に帰ってからも俺はイライラしていた。元とは言え友達が盗人だなんて、まるで自分の価値まで下げられたような心地だった。
「瑞樹ー! ちょっとこっち来て、手伝ってくれない? フライパンの火を見ててほしいの」
「はあ? やだよ、俺今から用事あるから」
「用事って何? こんな時間にどこ行くの? もうすぐご飯になるのに」
「お母さんには関係ないだろ!」
イライラのままにお母さんに八つ当たりし、俺は家を出た。さっき原くんからカラオケに行こうと連絡がきた。喉が潰れるぐらい歌いまくったら、少しは気が晴れるかもしれない。
俺は暗い夜空をいつもよりスピードを出して蛇行した。
集合場所のカラオケ店の前には原くんと、福尾くんの姿もあった。
俺は真上から二人に呼びかけようとして、慌てて口を閉じる。福尾くんは、たぶん彼のものと違うくたびれた財布を手の上でぽんぽんと弾ませ、見たことない下卑た笑みを浮かべていた。原くんもだ。
反射的に羽音を鎮めカラオケ店の看板の裏に隠れる。嫌な予感がした。
「それにしても本当に上手くいったな。簡単すぎてあくびが出るかと思ったわ」
「他に四人もいる中で、よくバレないように盗れたな」
「だって皆クソ真面目に掃除に夢中になってるんだもん。これも、あんな不用心にカバンに入れてたら盗ってくれって言ってるようなもんだろ。
それよりお前の方こそ、上手く犯人を誘導したよな」
「いやぁ、笑わないようにするのが大変だったわ。てか羽で口元隠してちょっと笑ってたし」
「あ、やっぱりあれってそういうことだったんだ」
「バレてた? あははは!」
下品な笑い声を聞きながら俺の頭はパニックに陥った。
寺下くんの財布を盗った犯人は豪じゃなかった。しかも真犯人は原くんと福尾くん。清く正しい性質を持つはずの羽有人が、なぜ。
俺は原くんに体調が悪くなったと連絡して、そのまま家に引き返した。
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