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いじめは数日のうちにどんどんエスカレートしていった。
「あれ? 原……くんと福尾くんは? それに、あの、あいつも」
「あぁ。あの泥棒なら原くんたちが連れて行ったよ。今頃制裁でも加えてるんじゃないかな」
俺はなんでもないフリをして教室を出、少し離れてから走り出した。流石に止めなければ取り返しがつかなくなる。微かに残っていた清く正しい心の残骸が、今更俺の足を突き動かす。
あちこち探し回り、ようやく三人の姿を見つけたのは第二校舎にある美術室だった。
俺は教室の窓から目だけを覗かせ、ひっそりと中の様子をうかがう。
「青浪。言ってた金は持ってきただろうな」
「ご、ごめんなさい。やっぱりお金は渡せません」
「はぁ? お前人の金盗んどいて何言ってんの」
「だから、それは僕じゃない……」
「ふざけんな! いいからさっさと金出せ!」
福尾が拳を振り上げ豪の頬を殴った。瞬間、俺は教室の前ドアに向かって駆け出していた。飛びかかるようにドアの取手を引っ掴み、がらりと横に引く。
すると目に飛び込んできたのは想像だにしない光景だった。
「うわぁっ! なんだこれ!」
原と福尾が床に倒れ伏し、もがき苦しんでいる。よく見ると背中の羽が、先端の方から焼け焦げたように真っ黒に変色している。
「熱い熱い熱い! た、助け……」
変色範囲はみるまに広がり、そのたび原たちは苦悶の声を上げた。そして羽の全てが黒に蝕まれた時……彼らの足元の床に突然マンホール大の穴が空き、その中に滑るように吸い込まれ、断末魔ごと消えていった。
二人が落ちた後、穴は何でもなかったかのように元の床に戻った。全てが一瞬の出来事だった。
唖然としたように立ち尽くす豪に、俺は尋ねる。
「豪。一体何が」
「え、瑞樹……? ぼ、僕は何もしていない。本当だ、信じてくれ」
豪は泣き出しそうな声でそう言うだけだった。
その後俺たちは気分が悪くなったと早退し、久しぶりに一緒に下校した。原たちのことは先生に伝えなかったが、きっと明日には彼らの謎の失踪は問題になっていることだろう。
下校中、俺たちはただ黙って歩き続けた。直接手を下したわけではないけれど、まるで俺たちが二人を消したような後味悪さが残った。
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