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「ただいま。あのさ……」
帰宅後、俺はすぐにキッチンに立つお母さんの元へ向かった。お母さんは調理中のフライパンに目を落としたまま「どうしたの?」と言った。
「クラスメイトの羽有人がさ……羽が急に真っ黒になって、穴に落ちて、それから……」
要領を得ない説明になってしまい伝わらないかと思ったが、お母さんはハァと一つ息を吐いた後、フライパンの火を切ってこちらを振り向いた。
「あなたにもそろそろ教えないといけないわね」
いつもと違う真剣な表情からして、俺が見たあの現象が不吉なものであることは明らかだった。
「羽有人が天使の血を継いでいて、清く正しい心を持っていることは習った?」
「う、うん」
「そう。でもそれはね、少し違うのよ」
「え?」
薄々勘づいてはいたけれど、言葉にされるとショックだった。お母さんは静かに続ける。
「羽有人っていうのは一定以上の悪さを働くと、堕天して地獄に落ちてしまうようにできてるのよ」
「だ、堕天……」
「あなたのクラスメイトは、きっと悪さをし過ぎてしまったのね」
俺はようやく理解した。つまり、羽有人が皆清く正しい性質を持っているわけじゃない。清く正しい性質を持った羽有人しか生き残らないのだ。
一定以上の悪さを働くと、堕天して地獄に落ちてしまう。
じゃあ俺は? 俺が地獄に落ちるまで、許された悪さはあと何回だ?
「そうだ。ちょっと手伝ってくれない? フライパンの火を見ててほしいのよ」
お母さんはいつもの調子に戻り、明るい声で言った。そのお願いに、もう悪さを重ねられない俺の答えは一つ……
ー了ー
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