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プロローグ 1
その日、ユリシーズ王国の国王一家が揃ったサロンには、重苦しい空気がたちこめていた。
「どうしたものか……。いっそ、わしの首でこの罪をあがなえるのなら……」
白いものの交じった茶髪をわしゃわしゃと搔きむしったのは、今年五十になるこの国の王である。
「なんということを仰るのです、父上!」
国王を諫めたのは、亜麻色の髪に端正な顔立ちをした王太子だった。二十二歳の彼は、優秀だと国内外で評判である。
「その通りですわ。お父さまは国の柱。わたくしが参ります」
花開くように美しい二十歳の第一王女が、悲壮な顔で名乗りを上げる。
「だめよお姉さま。かくなる上は、あたくしが……」
十八になってもおてんばな第二王女の勝気そうな瞳には、涙が浮かんでいた。
国王に王太子、王女が二人。やいのやいのと論争を交わす中、優美な彫刻の入った椅子から立ち上がったのは、まだ幼さの残る少女だった。
「帝国には、わたしが行きます! お父さま、そのお役目をわたしにくださいな」
白銀色の髪に空色の瞳をしたこの少女の名を、セラフィナという。
ユリシーズ王家の末の王女である彼女は、齢十四。セラフィナはあどけない表情で笑った。姉二人もそれぞれ美しいが、セラフィナの美貌は抜きんでている。
「なにを言う! セラ、お前はわしらの宝物だよ。こんなに幼いお前を帝国へやるわけがないだろう」
国王の言葉にセラフィナは口元を尖らせた。
「わたしは小さな子どもじゃないのに……。それに、お姉さまたちは婚約しているんだもの。婚約者さまを置いて帝国に行くなんて、そんなのだめです」
セラフィナが家族を見回すと、その場に沈黙が訪れた。
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