第一章:高原の国 1

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第一章:高原の国 1

「なんて綺麗なところなのかしら……」  セラフィナは、アーサイト帝国の宮殿にある自室の窓から、朝の光が降り注ぐ外の景色を眺めていた。    目の前には湖が広がり、周囲には雄大な山々が連なっている。いちばん高い山は角のように傾斜がきつく、天高くそびえていて、山頂にはまるで帽子のような万年雪を戴いていた。  季節は晩夏。暑さに弱いセラフィナだが、帝国の空気は涼やかで過ごしやすかった。  宮殿に到着してから二日、与えられた部屋でひたすら眠り続けたセラフィナだったが、旅の疲れも癒えて、今は体が軽い。 「やっとお目覚めですか」  振り返ると、栗色の髪を結い上げた侍女が立っていた。二十歳前後だろうか、可愛らしい顔立ちをしているが、セラフィナを見つめる瞳にはなんの感情も窺えない。 「はい。たくさん寝てしまって、ごめんなさい」  疲れていたとはいえ、まだ皇帝に挨拶もしていないのだから、失礼な話である。 「早速お召し替えを。陛下がお会いになられます」 「分かりました。あの、あなたのお名前を教えていただけますか?」 「……シーラです」  彼女のことは、セラフィナの専属侍女として紹介されていたが、部屋に通されたときにはもうろうとしていたので、名前を聞きそびれていたのだ。 「シーラさん! これから、よろしくお願いします」  ぺこりとお辞儀をしたセラフィナだったが、顔を上げれば、見えたのはシーラの背中だった。彼女はさっさと歩くと、無言で壁際に控える。  セラフィナに与えられた部屋は、日中過ごしたり、客を迎えたりするリビングルームに、三つの部屋がつながっていた。ひとつは今セラフィナのいる寝室で、リビングルームと寝室の間には、侍女が待機するための小部屋がある。他は浴室と洗面所に続いていた。  持参したトランクの中からひとつを選ぶと、セラフィナはそこからドレスを取り出す。  父親である国王は、身の回りの品をたくさん用意してくれたのだが、人質として行くのに物がありすぎるのも印象が悪い。そのため、セラフィナはごくわずかな荷物を携え帝国にやってきたのだ。
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