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雨
---人の死程厳かで、単調なものはないと思う。
行き交う人の波。雨を避ける為に連なる黒い傘の群れ。俯瞰して見てみれば一点に留まっているように思えるのに、それはまるで大きな石をどかした時に垣間見えるような虫の集いに酷く似ていた。
ポツ、ポツ、と肌を濡らす雫と耳を通過する雨音。
「雨だね。---紫苑くん」
「…ですね。こんな時ぐらい、晴れてくれてもよかったのに」
それでも、こんな悪天候だからこそ、弱音と感傷を雨のせいにして涙することができる。
有田司。享年24歳。そんな簡素な言葉で纏められた事実は、俺の姉の死を軽く見下しているように見えた。
---姉が、突然死を遂げて、7日がたった。今日は有田司の葬式の日だった。
「紫苑くんにとって司は、唯一の家族だったから。…辛いよね」
「そういう汀さんこそ。もう少しで姉さんと結婚する予定だったじゃないですか」
「…ほんとにね。こんなことになるなら、もっと早く籍を入れておけばよかった」
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