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2人の過ごしていた、生活空間に足を運ぶ。姉さんと汀さんの匂いがする。生きていた、寄り添っていた証がある。
---線香の匂いを纏った空気だけが、現実を突き刺してくる。
「紫苑くん。お酒、飲んでも大丈夫かな」
「はい。姉さんも大好きだったから。きっと、飲み過ぎたら横で呆れてくれますよ」
「---そう、だといいな」
缶のプルタブを開ける乾いた音が響く。俺はまだ未成年だから、その光景を眺めるだけ。汀さんは姉さんと汀さんが映る写真を指先でなぞり、アルコールを絡めた思考で浸っていた。
お似合いの2人だったと、思う。
「…司、」
「汀さん」
汀さんは、哀惜の籠った眼差しで、声色で姉さんとの思い出の中を彷徨っている。ふわり、ふわりと覚束ない言葉達とままならない感情の渦に引き込まれた彼は、いつしか静かに涙を流していた。
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