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「知ってるなら聞くなよ。梨本の一番はどれ?」
「あっ、揚げ物食べ放題とか!」
「バカじゃねぇの。このテンションで食ったら吐くだろ」
「じゃあ、ケーキにしよ。ケーキひとり3つまでね」
「そこは食べ放題じゃねぇんだ」
けらけら笑いつつ、スマホ画面に目を落とす小山内。場所をどこにするか調べてくれるらしい。
無理している様子はない。ほんとに大丈夫なのかな。このままもう少しだけあの2人の話をしたくて、あたしは小山内のスマホ画面をのぞき込みつつ言った。
「好きになってよかったよね。忍のこと選んだ小山内の好きな人、超見る目あるよ。告白するのも思ったより早かったし」
「裕吾のこと、一度も名前で呼ばないの徹底しててうける」
「今はまだ呼びたくない。無理なの。許して」
「俺は別にいいよ。俺の好きな人ってのが何かうけるだけ」
あ、と立ち止まって画面を指差した小山内が「これとかどう?」と訊ねる。1ピースが大きなチーズタルトの画像。
車が横を通り過ぎる前に歩道に寄って、2人で同じ画面を見つめた。
「おいしそう。いいねぇ。食べよ!」
「じゃあ決まりで。ここ向かうか」
「着いたらたくさん話すから、たくさん話してよ。小山内の話聞くから」
「そんじゃあ、まあ……聞いてもらおうかな。話せるの梨本くらいだし」
「よし来た。任せて。そんで、たくさん食べて。またちょっと泣くかもしれないけど、いいよね」
夕日に照らされた小山内は「そうだな」と小さく笑ってうなずいてくれた。
恋は失ったけど友情はまだ続きそうだから、とりあえずは今日をやけ食いの日にしよう。明日からのことは、食べながら一緒に考えればいい。
明日のあたしと小山内の気持ちが、ちょっとでも軽くなっていたら、それだけで今は充分だ。
END
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